第27話 才能


「節也、ちょっと休憩にしましょうか」


 どれだけ装甲虫を狩っても、スキルが解放される気配はない。

 疲労感ばかりが蓄積してモチベーションが下がってきたところで、様子を見ていた祐穂が告げた。


「ルゥ、休憩しよう」


『……ん』


 同調を解くと、刀が消えてルゥの姿が現れる。

 節也は眠たそうなルゥを連れて、装甲虫の巣から離れた。


「どう? モンスターとの戦闘は」


「思ったよりいけるな。ルゥが強いことも幸いしているが……最初に初心者狩りに襲われたり、タイラントワームみたいな大きなモンスターと戦ったりしたからか、そこまで抵抗は感じない」


「まあ……アンタの場合、順序がおかしいところはあるわね」


 祐穂が複雑な顔をする。


「ただ、今のところスキルは解放できそうにないな」 


「そりゃあ今すぐには無理よ。第二のスキルを習得するまで、普通は一週間……長ければ三ヶ月は掛かるわ」


「え、そんなに時間が掛かるのか」


「そんなもんよ。ゲームが始まって一年くらい経つけど、スキル習得数の平均は大体三つから五つくらいだし」


 一年で三つから五つと考えると、そのくらい時間が掛かってもおかしくない。ただ、自分はまだひとつしかスキルを習得していないのだ。できれば平均以上のペースでスキルを習得し、他のプレイヤーたちに追いつきたいが……。


「……どういうところで、差がつくんだろうな」


「え?」


「この世界はゲームが元になっているだけで、ゲームそのものではない。スキルの習得も、システムが管理しているわけではなく個人差がある。……その差って、どういうところで生まれるんだろうな」


 その問いに、祐穂は考えてから答えた。


「プレイヤーにも、才能っていうのがあるのよ」


 端的に述べた祐穂は、次いで説明する。


「普通に過ごしていたら、まず発覚しないような才能。……天使という特殊な武器を使って、人一倍戦うことができるような能力。そういうものを持っている人たちが、極稀にいるの」


「……戦う能力か」


「ええ。もっとも、そんな曖昧なものに頼らなくたって努力さえすれば強くなれるわ」


 心強い言葉だった。

 とにかく今は泥臭く努力するしかないだろう。節也は腹を括る。


「ところで、話は変わるけど……冴嶋先生はアンタの妹に関する事情を知ってるわけ?」


 祐穂の問いに、節也は汗を拭って答えた。


「部分的には、知ってる」


「どういう意味よ」


「妹が失踪していて、俺がそれを探していることまでは知っている。ただ、通り魔の件は言ってない。……下手に伝えると、余計な心配をされるかもしれないからな」


「……まあ、生徒が通り魔に襲われたなんて聞いたら、真面目な教師は色々と動きたがるかもしれないわね」


 生徒想いの傑なら何か動いてくれるかもしれない。しかし妹や通り魔に対する捜索は、警察ですら打ち切ったほどだ。あまり頼ったところで意味はないだろうと思っていた。


 だが、妹がプレイヤーであると知り、更に傑もプレイヤーであると判明した今、改めて頼ってみるのも悪くないかもしれない。


「……ん?」


 その時、ふと節也は伏せていた顔を上げた。


「今、何か聞こえなかったか?」


「別に何も聞こえなかったと思うけれど……」


 祐穂が不思議そうにする。

 しかし、次の瞬間。


「助けてくださーーーーーい!!!!!」


 遠くで、助けを求める女性の声が聞こえた。

 必死の声だ。すぐに節也と祐穂は声が聞こえた方へ走る。


「節也、あっち!」


「ああ……モンスターに襲われてるみたいだな」


 紫髪の女性が、こちらに走ってきていた。

 その背後には大量の装甲虫がいる。どうやら襲われているようだ。


「ルゥ!」


「サージェイン!」


 節也と祐穂は素早く同調した。

 流石に放っておくわけにはいかない。


「《流波の笹フィン・バーラ》ッ!!」


 祐穂が水の足場を生み出し、目にも留まらぬ速さで女性のもとまで飛翔する。


「掴まってなさい!」


「きゃっ!?」


 女性を抱えた祐穂は、そのまま装甲虫から逃げるように距離を取った。

 しかし、人を担いでいるからか、機動力が落ちている。

 このままでは装甲虫に追いつかれてしまうだろう。そこへ――。


「節也ッ!!」


 叫ぶ祐穂と入れ違うように、節也は大量の装甲虫たちの前に立ちはだかった。

 そして、真っ白な刀を振るう。


「――《飛翔する閃薙アエロ・ブレイド》ッ!!」


 一閃。眩い光の斬撃が、装甲虫の群れを纏めて斬り伏せた。

 バラバラと音を立てて崩れ落ちる装甲虫たちを見て、祐穂も安堵して立ち止まる。


「あ、ありがとうございます~~~~!!! 助かりました~~~!!!」


 装甲虫に追われていた女性は、涙を流しながら感謝した。

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