第26話 戦闘訓練


ネストっていうのは、ざっくり言うとモンスターが大量に湧く場所よ」


「成る程」


 その程度の説明であっさり理解できる辺り、自分も大概ゲーマーだなぁ、と節也はしみじみ痛感した。


 傑に教えてもらったのは、伏装丘陵ふくそうきゅうりょうの一角にある、装甲虫の巣だ。相性にもよるが、基本的に装甲虫は初心者向けのモンスターであるため、戦闘経験を積むには丁度いい相手らしい。


 節也は祐穂と二人で、巣へ向かっていた。


「天使のスキルは、色んな条件を満たすことで解放されるわ」


 道中、祐穂は説明した。


「例えば、パートナー同士の絆が一定以上になった時。他にも、命の危機に瀕した時とか、特殊なアイテムを使用した時とか、色んな条件が存在する」


「その辺りは、はっきりと決まってないんだな」


「ええ。スキル解放の条件は天使にすら分からない。要するに、ひたすら一緒に行動して、手探りで解放を目指すしかないのよ」


 そこはゲームとは違うらしい。

 ゲームならレベルの上昇などによって新しいスキルが手に入るが、Wonderful Jokerにおいて、そのスキルを持つ天使は意思を持ったプレイヤーの分身である。天使の力を引き出すのは、そう単純ではない。


「ただ統計的な事実として、戦闘経験はスキル解放に繋がりやすいわ。つまり、強くなるにはひたすら戦えばいい」


 完全な手探りと比べると十分過ぎるほどのヒントだった。


「後は……イベントね」


「イベント?」


「この世界にもエンドコンテンツがあるのよ。そのうちのひとつが、揺り籠の島クレイドル・アイランドの中心にある『五冠の神殿』。……このステージのボスを倒すことで、終曲級フィナーレのスキルが解放されるわ」


終曲級フィナーレって、確か一番強いスキルだよな。今のゲームの進行状況で、そんなスキルを習得されたら誰も敵わないぞ」


「その辺のゲームバランスはちゃんとできているみたいよ。『五冠の神殿』は、今の私たちには到底攻略できないわ。……多分、ゲームが終盤に差し掛かった頃に、攻略可能になるような難易度なんでしょうね」


 とは言え、そのような壮大なステージがあることは、一人のプレイヤーとして浪漫を感じることではある。


「着いたわよ」


 祐穂が足を止めて言う。

 そこには大量の装甲虫がいた。


「うじゃうじゃいるな……」


 荒れた大地の、至る場所に装甲虫の姿がある。形状は蠍に近いが、その大きさは成人男性と同じかそれ以上だ。ギラリと陽光を反射する鋏と尻尾を見て、節也は気を引き締める。


「私はここで見ているから、好きに戦ってみなさい」


「祐穂は戦わないのか?」


「私は既にこの場所で、諧謔曲級スケルツォを二つ習得したのよ。ここではもう他のスキルは習得できそうにないし、アンタの面倒も見なくちゃいけないでしょ」


 そんな子供みたいに扱われても困るが……正直、ありがたい。


「ルゥ、頼む」


「ん」


 傍にいたルゥへ声を掛け、同調を開始する。

 美しい、一振りの刀が顕現した。


「……初めて見た時も綺麗だとは思っていたけど、四大貴天と聞いた今なら、納得ね」


 祐穂がボソリと呟く。

 戦う準備を整えた節也は、すぐに装甲虫のもとへ向かった。


 ――妹を探すためにも、強くなりたい。


 できるだけ早く、できるだけ確実に。

 その思いが節也の原動力となる。


「節也! 装甲虫の特徴は、文字通り硬い装甲よ! 攻撃が通らないと思ったら一度退いて――」


 背後で祐穂が叫ぶ。

 だが節也は、無心に刀を構えて、


「――《飛翔する閃薙アエロ・ブレイド》ッ!!」


 放たれた斬撃は、近くにいた装甲虫を纏めて切断した。

 その光景を見ていた祐穂が顔を引き攣らせる。装甲虫の硬さなど、ものともしていない。


「よし、この調子で倒していくぞ」


『りょーかーい』


 特にルゥも負担を感じているわけではないようなので、どんどんとスキルを発動する。

 今、このネストで戦っているのは自分しかいないため、辺りにいる装甲虫たちが一斉に襲い掛かってきた。眼前から迫り来るモンスターの大群は、本来なら恐ろしいのだろうが……相棒であるルゥがそれ以上に頼もしい。


「《飛翔する閃薙アエロ・ブレイド》ッ!!」


 迫り来る大群が、一瞬で瓦解する。


「……無双できるな、これ」


 伊達に攻撃範囲特化の力を持っているわけではない。

 そう言えば先日閲覧したWonderful Jokerの攻略サイトに、空の四大貴天の特徴は一対多なら最強と記されていた。つまりこの状況は、ルゥの真骨頂が現れやすいのだろう。


「でも、スキルは解放されないか」


『んー……これといった、ひらめきは……なし』


 スキルの解放は、天使の閃きで生じるものなのだろうか。

 そんな疑問を抱きつつ、その後も戦い続ける。しかし、戦う度胸を培うことはできても、スキルの解放には至らなかった。




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