第8話 戦いの後
鉈を持った男の姿が目の前から消失した後、節也は鼓動を落ち着かせるように、ゆっくりと呼吸した。
「終わった、のか……?」
『ん』
頭の中から、ルゥの声が聞こえる。
直後、刀が眩い光を放つ。刀の姿が光になって消え、代わりに人間の姿をしたルゥが現れた。
「相手の天使を壊したから……私たちの、勝ち」
ルゥの説明に節也は納得する。
Wonderful Jokerの敗北条件は、あくまで天使を破壊されることだ。これはつまり相手の武器を破壊することと言い換えてもいい。先程は節也が鉈を壊したので、あの男はこのゲームを脱落したのだろう。
「壊した天使って、やっぱりその……死ぬのか?」
「違う……ゲームが終わるまで、天界に閉じ込められるだけ」
詳しくは分からないが、とにかく死んだわけではないらしい。
節也は安堵した。いくら天使とはいえ、見た目は完全に人間と同じだ。できれば殺したくない。
「男の方は、何処に行ったんだ?」
「……元の世界に、帰った」
なんとなくその予想はしていた。自分がこの世界に転移した時の光と、あの男が姿を消す時の光が似ていたからだ。
このバトルロイヤルは、相手を殺さなくても勝敗を決することができる。それは節也にとって、安心して戦いに臨むための最低条件だった。
だが、きっと――殺すこともできるのだろう。
今回戦った初心者狩りの男も、最初から節也自身を狙っていた。冷静に考えれば当たり前である。わざわざ相手の武器を狙って戦うよりも、一度相手を戦闘不能にしてから武器を破壊するといった順序の方がやりやすい。
「エルフィンさん、大丈夫ですか?」
「は、はい。私は大丈夫ですが……驚きました。セツヤさん、とても強いプレイヤーだったんですね」
「そう、なんですか? 初めて戦ったので、よく分からないんですけど……」
と言いつつも、薄々そんな予感はしていた。
節也が強いというよりも――ルゥが強い。終わってみれば、先程の戦闘も自分は何もしていないようなものだ。構えるだけで攻撃を防き、更に出鱈目に刀を振るうだけで敵を倒すことができた。
ちらりとルゥを一瞥する。
ルゥは少し前の戦闘なんてまるでなかったかのように、眠そうに欠伸をしていた。
「しかし……馬車が壊れてしまいましたね」
エルフィンが、破壊された馬車を見て呟く。
「馬も走れる状態ではありません。……街まで結構ありますが、歩くしかありませんね。荷物は後で回収することにします」
溜息混じりにそう言ったエルフィンは、節也の方を見る。
「セツヤさんも歩きますか?」
「そのつもりです。俺も、ここで野垂れ死ぬわけにはいかないので」
「野垂れ死ぬ、ですか?」
エルフィンが首を傾げた。
「プレイヤーの方は、その気になったらいつでも自分の家に帰れるのではないのですか?」
「え? ……どういうことですか?」
「詳しくは私も知りませんが、街にいるプレイヤーの方々がそのようなことを口にしていました」
全く知らない情報だ。
「ルゥ、そうなのか?」
「ん……可能」
先に言えよ――。
節也は頭を抱える。
「どうすれば帰れるんだ?」
「ゲームと、同じ……私たちは今、異世界にログインしている状態だから……」
ルゥの説明に、節也はひとつの言葉を連想する。
ゲームの舞台に立つことをログインと言うならば、ゲームの舞台から去ることはその反対の言葉で表せる。つまり――。
「――
その言葉を唱えた直後、節也の姿は光に包まれて消えた。
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