第21話 敵の発覚
目の前にあるのは灰色の短剣だった。色は地味だが、形は独特で、棘のような突起や精緻な装飾がついている。
間違いない。この武器は、通り魔が持っていたものだ。
しかし――。
「微妙に……見た目が、違う?」
形は全く同じだが、模様が足りない。
戸惑いを隠せずにいると、祐穂がこちらの顔を覗き見た。
「もしかして、灰色の掌の模様が入ってた?」
「ああ……って、待て。なんでそれを知ってるんだ?」
訊き返す俺に、祐穂は神妙な面持ちで答える。
「灰色の掌は、アイアン・デザイアのエンブレムよ」
頭の中に衝撃が走る。
ということは、つまり――通り魔の正体は、アイアン・デザイアの構成員ということか。
通り魔がプレイヤーであることはなんとなく察していた。あの神を名乗った子供にWonderful Jokerの説明をされた時、通り魔が持っていた武器はこの異世界のものだろうと推測できたからだ。しかし、そのプレイヤーがアイアン・デザイアの構成員とまでは考えていなかった。
「天使は地球では武器化できない。だから代わりに、通り魔はこういうところで武器を用意したのね。確かに、こっちの武器なら跡がつくこともないわ」
冷静に祐穂が推理する。
「しかし……通り魔の正体がアイアン・デザイアの構成員だとして、どうして俺や妹を襲ったんだ?」
「さあ、そこまでは私も分からないけど……ひとつだけ推測できることはある。アンタの妹……メイちゃんも、Wonderful Jokerのプレイヤーだった可能性が高いわ。でないと、アイアン・デザイアに敵視される説明がつかない」
それは、その通りだろう。
節也が狙われた理由は、妹メイが狙われた理由と関係があるかもしれない。
これまでずっと抱えていた疑問が、途端に解消されていく。
それは節也にとって――
家族を害した存在の身分が、漸くはっきりとした。
沸々と、怒りが込み上げる。
「念のため言っておくけど、迂闊な行動は慎みなさいよ」
祐穂が静かに告げる。
「アンタの目的は、復讐じゃなくて妹を探すことでしょ。そこんとこ、弁えなさい」
「……ああ」
祐穂に宥められ、競り上がっていた怒りが霧散した。
彼女の言う通りだ。優先するべきことは、まず妹の行方を知ることである。
「取り敢えず、今日はもうログアウトしましょう。アンタも色々と考えを整理したいでしょ?」
「……そうだな」
今はその気遣いがありがたい。
節也と祐穂は、それぞれ異世界を出るための言葉を唱えた。
「――
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