第20話 依頼の後
祐穂がタイラントワームを討伐したことで、すぐさま冒険者たちによる解体作業が行われた。
タイラントワームの胃袋には大量の鉱石が入っていた。その中に、拳大の琥珀のようなものがある。
「これは記憶結晶と言われる貴重な鉱石です」
回収した琥珀を指さして、エルフィンは説明する。
「それ……聞いたことあるわ。確か、武器や防具の素材になるのよね?」
「はい。加工することによって、スキルを記憶できる特殊な装備になります」
「スキルを記憶?」
疑問を抱く節也に、エルフィンは頷く。
「簡単に言うと、他人のスキルを記憶して、自分のスキルのように使用できる道具です。記憶結晶を使った装備は、プレイヤーの方々の間でも高値で取引されていますよ」
そんなものがあるのか……。
「便利そうだな」
「ええ。でも記憶結晶は、天使のスキルは再現できないわ。私たちにとっては、現地人のスキルを模倣するためのアイテムね」
祐穂が補足する。
その時、こちらに近づく馬車の音が聞こえた。
「エルフィン様ッ!」
馬車を降りて姿を表わしたのは、シュロープ商会の人間だった。
「遅れて申し訳ございません! ただ今、救援を呼んで参りました!」
「ありがとうございます。ですが、もう終わりました」
「……は? もう終わった、ですか……?」
商会の男は目を丸くする。
「すみません。急いで来てもらったにも拘わらず」
「い、いえいえ! 無事に終わったのであれば問題ありません。しかし、そうですか……偶々会ったプレイヤーの方に来ていただいたんですが、無駄になりましたね」
そう言って男は馬車の方へ振り返る。
丁度、馬車から一人の男が降りてきた。その男は商会の者とは装いが異なり、旅装束のようなものを身に纏っている。
「誰かと思えば、蒼の狂戦士か。成る程、君ならタイラントワームくらい簡単に倒せるな」
男は祐穂を見て、薄く生えた髭を撫でながら言う。
「アンタ……見たことあるわね。もしかして
「ああ。この辺りを警備している最中に声を掛けられて、駆けつけた次第だ。まあ必要なかったようだがね」
その男について、祐穂は何か心当たりがあるらしい。
節也は黙って二人の会話を聞くことにした。
「いいえ、丁度よかったわ。報告したいことがあったのよ」
「報告?」
「ええ。アンタたちの警備が甘かったせいで、こいつが初心者狩りの被害に遭ったのよ」
こいつ、と言いながら祐穂は節也に視線を注いだ。
「何? それは本当か?」
男は驚いた様子を見せ、節也に近づく。
「申し遅れた。私はカインズ……アイアン・デザイア対策本部の一員だ」
聞き慣れない言葉を聞き、節也は首を傾げる。
「アイアン・デザイア対策本部……?」
「文字通り、アイアン・デザイアの凶行からプレイヤーを守るための組織よ。アイアン・デザイアの悪名は各地に轟いているから、こういうレジスタンス的な組織も結構あるの」
祐穂の説明に納得する。
そう言えば以前、祐穂は言っていた。アイアン・デザイアは確かに脅威だが……プレイヤーたちも、ただ黙ってやられているわけではない、と。
「すまない。奴らの初心者狩りを未然に防ぐためにも、警備を怠っているつもりはないんだが……どうやら警戒が足りなかったようだ。よければ何処で襲われたのか教えてもらえないだろうか? 今後の参考にしたい」
「あ、はい。それは構いませんが……」
答えようとする節也を、祐穂が手で制止する。
「悪いけど、私たちはまだ他に用事があるから次の機会にしてちょうだい。どのみち顔を出すつもりだったし、近いうちに本部には行くわ」
「……分かった。では次の機会を待つとしよう。団長も久々に君と話したいと言っていたぞ」
「はいはい」
「では、私は警備に戻る。二人ともいつでも本部に来てくれ、歓迎する」
そう言って男は馬車に戻った。
商会の男も「遅れて申し訳御座いませんでした」と一言伝えて、馬車に戻る。
「節也。色々あったけど、本来の用事を忘れてはないでしょうね」
「……当たり前だ」
節也は神妙な面持ちで頷く。
対策本部について、気にならないと言えば嘘になるが、今は他に優先するべきことがある。
祐穂に、妹の手掛かりを教えてもらわなくてはならない。
◆
カイナに戻った後。
節也たちは再び、百貨店にあるシュロープ商会のVIPルームに入り、そこで今回の報酬を受け取った。
「セツヤさん、ユーホさん。本日はどうもありがとうございました」
VIPルームを出ようとすると、エルフィンが深々とお辞儀して告げた。
その様子に、節也は難しい顔をする。
「その……いいんですか? こんな大金を貰って」
節也と祐穂は、それぞれ報酬金が入った革袋を持っていた。
袋はずっしりとした重さがある。袋自体も革製でかなり上質なものだ。しかし、エルフィンは柔和な笑みを崩すことなく答える。
「寧ろその程度では足りないつもりです。また後日、改めてお礼をさせていただきますね」
価値観の違いというか、育ちの違いというか、そういうものがひしひしと伝わった。
節也は諦念した様子で頷き、部屋を出る。
扉が閉められると同時に、節也は肩の力を抜いた。
「エルフィンさん……忙しそうだな」
「シュロープ商会のまとめ役みたいなものなんだし、当然と言えば当然ね」
祐穂も多少、気を張っていたのか、先程と比べてリラックスした様子を見せる。
「これで、やっと本来の目的を果たせそうね」
そう言って祐穂は百貨店の階段を上り始めた。
二階にある武器屋――確かそこが、目的地だった筈だ。
階段を上ると武器屋はすぐに見つかった。迷うことなく店へ向かう祐穂に、節也は再び緊張しながらついていく。
ここに、妹の手掛かりがある。
長年、追い求めていたものが……。
「節也。アンタに見せたかったのは、これよ」
武器屋に入った祐穂は、棚に並ぶ武器を指さして言った。
その武器を見て、節也は目を見開く。
「これは……っ」
間違いない。
妹と自分を襲った、通り魔が使っていた武器だ。
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