第5話 ようこそWonderful Jokerへ!
【Wonderful Jokerは、人間と天使がタッグを組んで戦う、異世界バトルロイヤル・ゲームです!】
【これから貴方を異世界へ転移します!】
【優勝者は、どんな願いでも叶えられます!】
「どんな、願いでもって……」
次々と表示されるメッセージに、節也は困惑した。
そもそも天使とはなんだ。異世界とはなんだ。あまりの急展開に困惑する。
【人間である貴方は、パートナーである天使を武器化してバトルに臨むことができます】
【ゲームは主に異世界で行われますが、プレイヤーは好きなタイミングで地球に戻っても構いません】
【地球での戦闘行為も可能ですが、オススメしません。何故なら地球では――】
「――あれ? あれれ~? おっかしいな~~?」
急に、どこからか子供の声が聞こえた。
同時に視界が明るくなる。足元も頭上も、全てが真っ白で……まるで雲と雲に挟まれたような空間だった。
その空間の中心に、小さな子供がいる。
少年にも少女にも見える、中性的な子供だった。明るい表情と、肩まで伸びる金髪が特徴的だ。
「今のチュートリアルは全部、おさらい程度のつもりだったんだけど……なんで君は、そんなに混乱しているのかな~?」
子供がこちらを見て言う。
節也は意味が分からず返答に困った。すると子供は少し離れたところにいる、真っ白な少女の方を見る。
「ルゥ、もしかして彼に何も説明してない?」
「ん……余裕、なかったから」
「駄目だよ~! 僕、言ったよね! パートナーにはちゃんと説明しなくちゃ駄目だって!」
困った様子で子供は言う。そして、改めてこちらを見た。
「いや~、ごめんね! うちの天使が何も説明せずに君を巻き込んじゃったみたいだ。まあでも招待を受けたのは君自身なんだし、今更引き返すことはできないよ~」
「……お前は、誰なんだ?」
「僕? 僕は神さ!」
頭のおかしい子供が現れてしまった。
いや、頭がおかしくなったのは自分の方かもしれない。
「少なくとも、この場に頭がおかしい人はいないよ」
「……なんで、俺の考えていることが分かったんだ」
「神だからね」
当然のように、目の前の子供――神は言う。
「取り敢えず、あそこでぽやぽやしているルゥに代わって、僕がWonderful Jokerについて説明しよう。ほんとは彼女が説明するべきなんだけどね」
神は、少し離れたところでうたた寝している少女を一瞥して言った。
「Wonderful Jokerとは、次世代の神を決めるためのゲームだ」
「……神を決めるためのゲーム?」
「そう! 天界では数世紀に一度、次世代の神を決めるためのゲームが行われる。それがWonderful Jokerさ! 今回は神の素質を持つ、三百人の天使たちが対象になっている」
「天使というのは……そこにいる白い女の子のことか?」
「正解! よくわかったね!」
そりゃあ、だって……羽が生えてるしなぁ。
しかし、漸くひとつだけ事実が明らかになった。あの真っ白な少女は、次世代の神になるかもしれない天使らしい。
「でも、プレイヤーは天使だけじゃない。三百人の天使たちは、それぞれ自分のパートナーになる地球人を選び、彼らと共にゲームに参加する。つまりこれは、人間と天使のタッグ戦なんだ!」
タッグ戦。
その言葉を聞いて、節也は自らの境遇を理解した。
「じゃあ俺は、あの天使にパートナーとして選ばれたということか」
「その通り! 順調に理解してくれたみたいだね!」
嬉しそうに神は笑う。
「それじゃあ次はルールを説明しよう。まずは戦いの舞台だけど、これは殆どが異世界となる。異世界はまあ、いわゆる剣と魔法のファンタジーな世界だと思ってくれたらいいかな。厳密には魔法じゃなくてスキルだけど」
「……異世界か」
神は頷く。
「Wonderful Jokerの舞台となる異世界は、僕がそのためだけに創った世界だ。創ったと言っても、ちゃんと地球みたいに生命の起源からじっくりコトコト煮詰めて創ったから、偽物や安物みたいには思わないで欲しいかな。まあ時間はめちゃくちゃ加速したけどね」
脊椎動物が生まれてからが長かったなぁ~、と神は呟く。
「ちなみに僕はネットゲームが大好きでね! 丁度、君が毎日のようにプレイしているオンラインゲームみたいなものが、三度の飯よりも好きなんだ!」
「……はぁ」
「だから、そのゲームを参考にして異世界を創ってみたんだ!」
「……はぁ?」
辛うじて理解できていたのに、急に話が理解の範疇を超えてしまった。
「君にとって、僕が創った異世界は馴染み深いと思うよ! ダンジョンとかアイテムとか、色々と共通点も見つかると思うから、時間があれば是非遊んで欲しい!」
湧き上がる混乱を辛うじて押し留める。
随分と馴染みやすいゲームだ。
「続いて、ゲームの勝利条件と敗北条件について説明しよう」
神は一拍置いて説明した。
「勝利条件は至極単純。自分以外のプレイヤーを全て倒すことだ。いわゆるバトルロイヤルってやつだね。優勝した暁には、天使は次世代の神となり、そして人間は――神となったその天使から、どんな願いでもひとつだけ叶えてもらえる」
瞳に浮かぶテキストでも、そのようなことが説明されていた。
このゲームは、パートナーとして参加する人間にも勝ち進むメリットがある。これなら人間も積極的にゲームに臨むだろう。
「敗北条件も単純だ。天使が破壊されたら脱落となる。一度脱落したら二度と復帰できないから注意して欲しい」
バトルロイヤルと言うのだから、てっきり人の生き死にが関わると思っていたが、必ずしも人間が死ぬゲームではないらしい。だが、天使が破壊されるというのはどういうことだろうか。「死ぬ」ではなく「破壊される」と表現されたことが気になる。
「説明は以上だ! それじゃあ早速、君を異世界へ転移しよう!」
神がそう告げた直後、節也の足元が淡く光った。
幾何学模様の魔法陣が地面に描かれている。魔法陣は徐々にその輝きを増していた。
「ちょ、ちょっと、待ってくれ」
頭を抑え、節也は呻く。
「うん? どうかした?」
「この短い間に、色々ありすぎて理解が追いつかない。大体、俺はついさっきまで通り魔に狙われて……」
そうだ――自分は先程まで、通り魔に襲われていたのだ。
神だとか天使だとか、Wonderful Jokerだとか、そんなもの節也にとっては全て二の次だ。節也が最も優先するべきことは、妹の行方を捜すことに他ならない。
「う~ん。なるほど、なるほど。事情は理解した」
神は顎に指を添えて言う。
「勝手なことを言うけどさ、僕はね、プレイヤーにはちゃんとゲームに集中してもらいたいんだよ。だからひとつだけ君に、特別サービスをしてあげよう」
そう言って、神は薄らと笑みを浮かべた。
「――君の妹は異世界にいる」
その言葉に節也は目を見開く。
「どういうことだ」
「あはは! それじゃあ頑張ってね~!」
「おい! どういうことだ!」
怒鳴る節也の足元で、魔法陣が強く輝き出した。
視界が光で包まれる。その寸前、神は張り付けたような笑みを浮かべて言った。
「勝ち上がれば、そのうち分かるよ」
◇
一組の天使と人間を異世界に送った後、神は「ふぅ」と呼気を発した。
「これはまた、波乱を起こしそうなプレイヤーだなぁ」
どこか楽しそうに神は呟く。
「ルゥの実力は知ってるけど、問題はあの使い手の方かなぁ。パッと見は普通の人間だけど、僕の目は誤魔化せないよ~」
独り言を口にしながら、神は宙に指を向けた。すると半透明の画面のようなものが空中に浮かぶ。神は指をスライドして、その画面を自在に操作した。
「……ああ、やっぱり。最大スキル保持数18かぁ」
表示された画面を見て、神は「くくく」と笑い声を上げた。
「
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