第33話 作戦会議
夕食が終わった後。
節也たちは店を出て、のんびり外を歩いていた。
「私はそろそろ宿に戻りますけど、皆さんはどうするんですか~?」
「もう遅いし、俺たちは地球に戻るつもりだ」
ロズマリアの問いに、節也が答える。
彼女とはここで別れることになるが……ふと、節也は疑問を抱く。
「そう言えば、ロズマリアさんは地球に戻らないのか? 地球の方がモンスターもいないし、安全な気がするけど……」
プレイヤーも、そのパートナーとなる天使も、それぞれ単身で転移できる。実際、ルゥはメイと契約を解除した後、一人で地球に転移して節也のもとまで来たのだ。
「異世界と比べて、地球はルールが厳しいですからね~。私みたいな見た目の人を、泊めてくれるところは中々ないんですよ~……」
ロズマリアは落ち込んだ様子で言った。
確かに地球は異世界と比べて、良くも悪くも治安がいい。プレイヤーがいれば、天使は透明化して色んな施設に同伴できるが、天使だけだと身分証の提示もできないため、地球は不便かもしれない。
「それでは皆様、今日は本当にありがとうございました~~!!」
ペコリと頭を下げるロズマリアに、節也は軽く手を振る。
それから、節也たちは開けた場所まで歩き、ログアウトの準備をした。
「……節也」
ふと、隣にいる祐穂が節也の名を呼び、その手を差し出す。
握手すればいいのだろうか……? 何がしたいのかよく分からないが、節也は取り敢えず差し出された手を握った。
暫く、無言で握手する。
祐穂の掌は柔らかく、ほんのりと温かい。しかし……何がしたいのだろうか? 握る力を強めたり、弱めたりしても祐穂は何も反応しないので、節也は首を傾げる。
「ええと……人肌恋しいのか?」
「ば――っ!! 違うわよ!! 一緒にログアウトすんのよ!!」
「あ、ああ、そういうことか」
じゃあそう言えよ、と節也は内心で突っ込んだ。
「……今後の方針について、ちょっと話したいことがあるのよ。ログインの時と同じように、ログアウトも一緒にすれば、二人で同じ場所へ転移できるから……取り合えずアンタの家まで送りなさい」
「分かった」
節也は首を縦に振る。
「「――
コマンドを入力すると同時に、頭の中で二つの行き先の候補が表示される。
選択肢は二つ。祐穂の家と、節也の家だ。二人で後者を選択すると、転移が開始する。
浮遊感と共に、目の前の景色が変わる。
やがて節也と祐穂は、総元家の玄関に姿を現わした。
「……なんで玄関なのよ」
「土足で家の中に転移するのは嫌だろ」
まあ確かに、と祐穂は納得する。
節也は祐穂をリビングへ案内した。
「それで、何の話がしたいんだ?」
祐穂はカーペットの上に腰を下ろし、神妙な面持ちとなる。
「節也……そろそろ、通り魔の件を解決した方がいいんじゃない?」
祐穂は続けて言った。
「異世界で襲われるならともかく、こっちの世界でも襲われたんでしょ? となれば、敵はかなり近くにいる。……一刻も早く対処するべきだわ」
「……そうだな」
異世界だけならともかく、地球でも命を狙われ続けるとなると気が休まらない。
「でも、通り魔はまだ俺のことを狙っているのか? 俺が襲われてもメイが出てこないことは、もう明らかになったし……」
「……セツヤはもう、標的にされていると……思う」
節也の疑問には、ルゥが答えた。
「多分……セツヤが
フェルムの目的は、自分に並ぶ優勝候補の排除だ。
となれば、ルゥと契約した節也がその対象になってもおかしくない。
「ねぇ、ルゥ。そう言えばメイちゃんは、ゲームから脱落したわけじゃないのよね?」
「ん……微妙なところ。私との契約は解除したから、プレイヤーではないけど……身体は異世界にあるし。……また天使と契約を結べば、プレイヤーに戻れる」
「ふぅん。じゃあアイアン・デザイアは、メイちゃんとルゥが契約を解除したと知った上で、まだメイちゃんのことを警戒しているわけね」
考えたくはないが、フェルムはメイの死体を見るまで警戒を解かないつもりかもしれない。存外、臆病な男だ。或いは……それほどメイが強かったのか。
「バトルロイヤルとしては、定石だよな。……実力のある相手や、強力な武器を持っている相手は、早めに潰すに限る」
だが、その手段はあまりにも卑劣だ。
フェルムは、ゲームに参加していない節也を人質に取ろうとした。その結果、メイは刺されて今も動けない状態である。
元凶のフェルムは勿論、実行犯である通り魔も裁かれるべき人間だ。
他人の命令で人を刺すような男が、身近な場所にいるかもしれないのだから――看過はできない。
「……通り魔を倒そう。俺も、メイを刺した男を許すつもりはない」
決意を固めた節也に、祐穂は頷いた。
「問題は、向こうは節也のことを知っているけど、私たちは通り魔のことをほぼ何も知らないってところね」
祐穂の言葉に節也は頷く。
節也たちは通り魔の居場所も身分も、何も知らない状態だ。こちらから行動を起こすことができない。
「こちらから攻められないなら……罠を仕掛けるしかない」
消去法だ。
節也は続けて言う。
「通り魔の狙いは、ルゥと契約した俺だ。なら俺が囮になれば、きっと食いつく」
「そうね。危険だけど、私もそれが一番効果的だと思うわ。相手が複数人で来たら難しいけど、こっちの世界だとお互いそんな目立った行動はできないでしょうし……賭けてみる価値は十分ある」
当たり前ではあるが、地球で人を襲うのは犯罪である。
通り魔もそれなりのリスクを負って節也を襲っているのだ。徒党を組んで目立てばそのリスクは倍増する。通り魔にとっても、なるべく選びたくない手段だろう。
「……具体的な作戦を立てよう」
どうやって通り魔を捕らえるか、一同は顔を突き合わせて考えた。
会議の途中、地図が必要になったので、二階にある節也の部屋へと移動する。節也、祐穂、サージェインの三人が意見を交わす中、ルゥはいつの間にかベッドで寝息を立てていた。
「よし……じゃあ、順を追って確認するぞ」
一通り作戦が纏まったところで、節也は言う。
「最初に、俺が通り魔と遭遇したら、すぐに祐穂へ連絡する」
「連絡を受け取った私は、この路地裏へ移動した後、一度異世界へ転移する」
節也の言葉に続いて、祐穂はPCに表示された地図を指さしながら言った。
そこは狭い路地裏の行き止まり地点だった。
「祐穂が異世界へ転移した後、俺はこの路地裏に入る。……その先は行き止まりだから、通り魔は俺を追い詰めたと考える筈だ」
「でも、その直後に――私が異世界からログアウトする」
祐穂が神妙な面持ちで告げた。
異世界からログアウトした場合、プレイヤーが現れる地点は、ログインした地点と重なるため――。
「通り魔の背後に、いきなり祐穂とサージェインが現れることになる。……挟み撃ちの完成だ」
通り魔が、節也を追い詰めたと思った矢先、その背後に祐穂たちが現れる。
後はそのまま袋叩きだ。
「その先は、サージェインに任せてもいいんだよな?」
「ああ。これでも天使の中では、武闘派で通ってるんだぜ?」
その引き締まった筋肉を見れば、あながち嘘でもないかもしれないと思う。
「それより坊主。この作戦はそれなりに危険だ。万一、ユーホが襲われるようなことがあれば、ちゃんと坊主が守ってやれよ?」
「勿論、そのつもりだ」
節也は間髪を入れずに答えた。
その様子に、サージェインは少し目を丸くした後、笑いを堪えながら祐穂を見る。
「だとよ、ユーホ」
「……うっさい。自分の身くらい、自分で守れるわよ」
そう告げる祐穂の頬は、真っ赤に染まっていた。
「まあ実際、異世界ならともかく、こっちで俺ができることなんて殆どないと思うけどな。……喧嘩の経験だって、そこまでないし」
「はっ」
節也が不安を吐露すると、サージェインが笑った。
「坊主。今更、何をビビっている? お前はあっちの世界では、武器持ったプレイヤーや、凶悪なモンスターと戦っているんだぜ」
「それは、そうだが……」
サージェインは不敵な笑みを浮かべる。
「坊主もそろそろ、
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