第39話 VSアイアン・デザイア③
大量の――それこそ数え切れないほどの装甲虫が迫った。
"空"の四大貴天であるルゥは、一対多なら最強と言われている。だがその使い手である人間には、体力という限界の壁があった。
「ふ――ッ!!」
羽ほどの重さしかない刀が、いつの間にか鉛のように重たく感じていた。
左右から迫る装甲虫を斬った後、思い違いに気づく。刀ではない、身体だ。全身が鉛のように重たい。
「ビギナーのわりに頑張るじゃねぇか。だが、そろそろ限界みたいだな」
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!!」
装甲虫から距離を取った節也は、必死に呼吸を整えた。
握力が弱まり、その手からスルリと刀が抜け落ちそうになる。節也は慌てて柄を握り締めた。
『セツヤ……』
「ああ……分かってる」
眼前から迫る無数の装甲虫たちを見据えながら、節也とルゥは短く声を交わした。
ああ、分かっている。
今、この瞬間――活路が開いた。
「……ん?」
節也が背後から襲い掛かる装甲虫を、最小限の動きで避けた瞬間、傑が疑問の声を発した。
紙一重の攻防はその後も続く。節也は斜め前方から突き出された装甲虫の尾を、刀の背で受け流し、更に流した尾を右方にいる別の個体へぶつけた。
「おいおい……どういうこった。なんで急に、動きがよくなる?」
動きの無駄を減らすことで、体力の消耗は抑えられた。
徐々に節也の呼吸は落ち着きを取り戻し、汗も引いていく。
死角から繰り出された装甲虫の爪を、尾を、牙を……全てを軽々しくいなした節也は、振り向くことなく背後に跳躍し、装甲虫の身体を足場にして更に跳んだ。
眼下で、装甲虫たちが無防備な姿を晒している。
節也は強く刀を握り締め――《
「まさか……っ!?」
傑が戦慄する。
死角からの攻撃を容易く避け、次々と装甲虫を倒す節也の動きは、360度全てを見渡していないと不可能な芸当だ。それを、可能にするものがあるとすれば――。
「有り得ねぇ!! お前まさか――――今、スキルを獲得したのかッ!?」
傑が大声で叫ぶ。
節也は答え合わせをするかのように、集中を研ぎ澄ませ、唱えた。
「
第三のスキル《
無数の装甲虫たちと戦っている最中、突如、節也とルゥに与えられたスキルである。
その効果は――俯瞰。
今、節也の目には、通常の視界に加えて、頭上から自分を俯瞰するような視界が見えていた。
それはまるで、天上にある太陽が自分の目になったかのような感覚だった。
異なる視界を持ちつつも、頭は何故か混乱しない。たとえ背後から装甲虫が近づいて来ても、《
「ふは……ははははっ!! 有り得ねぇ!!」
唐突に、傑は額を押えながら笑い出す。
「本当に、最悪の展開だ……!! こんな土壇場で、新しいスキルを獲得するなんて……流石に予想できなかったぜ」
傑は笑う。
だがそれは、今までの余裕ゆえのものではなく、自暴自棄の笑いだった。
「ずっと、こうなることを恐れていた! なにせお前は、あの総元メイの兄だ! ただの凡人なわけがねぇ! プレイヤーになれば、間違いなく脅威になると分かっていた!」
余裕が剥がれ落ちた傑は、怒り心頭といった様子で節也を睨んだ。
「だから念入りに監視して、天使の気配を感じたら、即座に殺すと決めていた! なのに……それが、ちょっと遅れただけでこれか! たった一週間で、ここまで化けんのか!! ああ、くそが――やってらんねぇよッ!!」
大声で叫ぶ傑に対し、節也は冷静に刀を構えた。
装甲虫はまだ数え切れないほど残っている。油断はできない。
「……ここで絶対に、殺してやる」
憎悪を込めた声色で、傑は告げた。
傑は毒々しい色の短剣を、装甲虫たちに向け、
「
節也にとっては初めて見る、夜想曲級のスキルを発動した。
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