第10話 マドンナ襲来


 二階の自室に入った節也は、すぐにPCを起動してオンラインゲームを始めた。どうせ祐穂は今もゲームにログインしているだろう。チャットツールを使うよりもゲームに入った方がコンタクトを取りやすいと判断した。



《セツヤさんがログインしました》


セツヤ:ごめん、急用が入って遅れた。


ユーホMk2:許さない。


ユーホMk2:今度、どこかで埋め合わせしなさい。


セツヤ:善処します……。



 なんだか尻に敷かれている夫みたいな気分になってきた。

 祐穂に恋人ができたら、きっと相手は大変だろうなぁ……なんてことを考える。



ユーホMk2:取り敢えず今、二十連戦終わらせたところだから、すぐに合流してちょうだい。


セツヤ:いや、今日はかなり疲れているから、また今度にしてくれ。


ユーホMk2:はぁ?????????????????



 取り敢えず物凄く怒っていることだけは分かった。


(……そう言えば、前回、変な質問をされたな)


 以前、祐穂はチャットで奇妙なことを言っていた。

 異世界って知ってる? ――確かに彼女は、そう尋ねていた。


(あの質問……もしかして祐穂も知っている・・・・・のか?)


 当初は質問の意図が理解できなかった節也も、今なら心当たりがある。

 もしかすると、祐穂もWonderful Jokerのプレイヤーかもしれない。そんな疑いが頭を過ぎった。


(いや……勘違いの可能性もある。ここは慎重に訊こう)


 なにせ相手は廃人ゲーマーだ。Wonderful Jokerのことなんて全く知らなくても、常日頃から「ゲームみたいな異世界があれば行きたい」と考えているかもしれない。


 節也は考えた末、さり気なく確認することにした。



セツヤ:話は変わるけど、実はオススメしたいゲームがあって。


ユーホMk2:そんなので誤魔化される気はないけど……アンタがオススメって珍しいわね。タイトルは?



 ここだ。

 緊張を押し殺して、節也はメッセージを送信した。



セツヤ:Wonderful Jokerっていうんだけど。



 祐穂の反応を待つ。

 しかし、それまでは三秒と経たずに返事をしてきた祐穂が、ここにきて全く返事をしなくなった。


 タイトルを検索しているのだろうか。

 それとも――心当たりがあるのだろうか。



《ユーホMk2さんがログアウトしました》



 唐突に祐穂が退席する。

 予想外の反応だった。これでは判断がつかない。


「――あ」


 その時、節也は失態を悟る。

 もし、祐穂がWonderful Jokerのことを知っているとすれば――自分たちは敵同士・・・なのではないか?


 ぶわり、と全身から冷や汗が吹き出す。

 マズいことをしてしまったかもしれない。節也はすぐに立ち上がり、起動されたPCを放置したまま急いで一階に下りた。


「ルゥ!」


「……んむ?」


 ルゥはソファの上でのんびりと眠っていたらしく、節也の呼びかけに寝ぼけた顔で応じた。


 緊張感が抜ける。仮にこれからすぐ戦いになったとしたら、負けるかもしれない。

 その時、家のチャイムが来客を報せた。


「……まさか」


 嫌な予感がしながら、節也は玄関まで向かう。

 念のためチェーンをかけて、ゆっくりとドアを開いた。


「こんばんは。早く入れなさい?」


 御厨祐穂は、男なら誰もが見惚れてしまうほどの素敵な笑みを浮かべながら、そう言った。




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