第12話 頼んでいないレクチャー
【開始地点を選択できます】
→【カイナ/平静な草原】
【ナミート/竜降ろしの洞窟】
【※注意】
【全員の選択が一致しなかった場合、開始地点はランダムに決定されます】
不思議なテキストが目の前に表示される。
節也は試しに、二つ目の選択肢を意識してみた。すると左端の矢印が二つ目の選択肢へ移動する。成る程、どうやら考えるだけで選択できるらしい。
予定通り節也は【カイナ/平静な草原】を選択した。恐らく同様に祐穂も選択したのだろう、やがて自分たちを包む光は収束し、次の瞬間、目の前には青々とした草原が広がっていた。
そして、光が完全に消えた後。
節也と祐穂は――。
「どこ触ってんのよ!!」
「どこでもいいって言ったじゃねーか!」
だだっ広い草原の中で、節也と祐穂は言い争っていた。
「た、確かにそう言ったけど、普通は手とか肩とか色々あるでしょ!! あ、アンタもしかして私のこと、そんな子供みたいに見ていたわけぇ!?」
「誤解だ! その、偶々、頭が触りやすかっただけで……」
「ロリコン! この――ロリコン!!」
好き勝手喚き散らす祐穂に、節也は額に青筋を立てた。
「ふざけんな! 胸とか触るよりマシだろ!」
「む、胸って……!? ああ、アンタ、私のことそういう目で見ていたわけ!? 信じらんない!! アンタだけは違うと思ってたのに!!」
「見てねぇよ! 見るほどの胸もねーだろお前は!」
「ああぁあああぁぁああぁああッ!? アンタ今、言っちゃいけないことを言ったわね!! 殺すッ! 今ここで引導を渡すッ!!」
両手で胸を隠しながら祐穂が叫ぶ。
隠すほどのものでもないのに。
「おーい、落ち着けよ二人とも」
サージェインが、溜息混じりに言った。
穏やかな風が頬を撫で、二人は徐々に落ち着きを取り戻す。
「お前らいつもそんな感じなのか?」
大体こんな感じである。
と、正直に答えるのはなんだか癪だったので、節也と祐穂は共に目を逸らしながら黙った。
「……そう言えば、元の世界では夜だったのに、こっちだと昼なんだな」
空を仰ぎ見ながら節也は言う。
太陽――かどうかは分からないが、こちらの世界を照らす恒星は丁度、頭上に見えた。空は青く、気温も温かい。
「時間の流れがズレてんのよ。こっちは地球と比べて三倍の速度で時間が進む……つまり、異世界の三時間は地球で一時間よ。異世界も一日の周期は二十四時間だから、地球で一日が経つ間に、異世界では三日経っていることになるわね」
成る程、と節也は納得した。
地球の現時刻は20時頃だった筈だ。三倍にすると60時間。一日の周期である24時間で割ると、答えは2日と12時間の余りとなる。
地球の午後八時は、異世界では二日過ぎた後の……つまり三日目の正午に該当するらしい。
どうりで明るいと思った。
「それで、わざわざ異世界に来て何を教えてくれるんだ?」
「取り敢えず、一番重要なことを教えるつもりよ」
機嫌を直してくれたのか、祐穂はこちらに向き直って言った。
「その前に……アンタ、戦闘経験はある?」
祐穂が訊く。
「まあ、プレイヤーになったばかりだから、ないとは思うけど――」
「いや、あるぞ。ついさっき初心者狩りと戦った」
「……は?」
祐穂が目を点にして驚いた。
「……アンタ、初心者狩りに勝ったの?」
「ギリギリだったけどな」
本当にギリギリだった。ビギナーズラックで勝てたようなものだ。
あの時の戦いを思い出して苦々しい気落ちになる。
「……そうよ。よく考えれば、カイナって初心者狩りの町じゃない。そんなとこに一人で転移して、無事に帰ってこられるなんて……」
祐穂は……急に考え込み、ブツブツと独り言を呟いていた。
「――ま、当然と言えば当然だ」
サージェインがちらりとルゥを見て言う。
「サージェイン。アンタ、何か知ってるわけ?」
「ああ。だが、どうせすぐに分かる。これからスキルについてレクチャーしてやるんだろ?」
「……そうね」
心を落ち着かせるために深く息を吐いて、祐穂はこちらを見る。
「節也。初心者狩りとの戦いでは、どのくらいスキルを使ったの?」
「スキル?」
「……スキルも知らないのね。じゃあそこからレクチャーするわ」
そう告げる祐穂の隣に、サージェインがゆっくり歩み寄った。
パートナーである人間と天使が眼前に佇む。その構図は、初心者狩りに襲われた時のことを彷彿とさせた。
「構えなさい。今から私が、天使の使い方を教えてあげるわ」
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