第31話 真相
大事な話がある。
そう告げたルゥは、まず落ち着いた場所へ移動することを促した。どうやらあまり人に聞かれていい話ではないらしい。
「ルゥ。……話すんだな?」
「ん……もう隠す意味がない」
町を歩く途中、ルゥとサージェインが短く声を交わした。
「サージェイン。アンタ、ルゥが話す内容について知ってるの?」
「まぁな。……セツヤにとって大事なことだ」
サージェインの言葉に、節也は「俺?」と首を傾げる。
やがて四人は小さな喫茶店に入り、人がいないスペースにあるテーブルに座る。
「それで、ルゥ。話って何なんだ?」
対面に座るルゥへ、節也は訊いた。
「セツヤの妹……メイは、この世界にいる」
ルゥは小さな声で告げた。
メイの名が出たことで節也は一瞬、顔が強張る。だがその情報は既に知っていることだ。
「まあ……神様も、そう言ってたしな」
「……違う」
ルゥは否定して、続けた。
「メイは、今…………別の大陸にいる」
その言葉を聞いた節也は、ゆっくりと目を見開いた。
動悸が激しくなる。どうして、ルゥは――そんな
「なんで……それを知っているんだ?」
「……一緒に、行ったから」
一緒に?
疑問を抱く節也。その傍では祐穂も神妙な面持ちをしていた。
口下手なルゥのことだ。
何かの間違いだろうと節也たちは思ったが――。
「私と、メイは……パートナーだった」
ルゥが、告げる。
「皆には……
節也は目を剥いた。
現在、Wonderful Jokerには二人の優勝候補がいる。一人は鉄の四大貴天のパートナーであり、アイアン・デザイアの長でもある男フェルム。そしてもう一人が、白い仮面を被った正体不明のプレイヤー、ホワイトだ。
「……どういうことだ」
震えた声で、節也は訊く。
「ルゥは、メイとパートナーだった? でも、今は俺と組んで……」
困惑する節也。
その隣で、祐穂は何かに思い至った様子でルゥを見た。
「ルゥ。……アンタ、節也は
「……ん」
天使は、一度結んだ契約を解除して、他の地球人と再契約することができる。
つまりルゥは、最初はメイと契約し――その後、節也と契約したのだ。
「なんで、そんな大事なことを、今まで黙っていた……」
「それを……今から、説明する……」
視線を下げて、ルゥは言う。
「セツヤは、知ってると思うけど……メイは、天才だった」
ルゥの言う通り、それは節也がよく知っている事実だった。
総元メイは天才である。頭脳も、運動神経も、その他のあらゆる能力が全て人並み外れていた。
その才能を節也が知ったのは、メイが初めて自転車を運転した時だ。メイは自転車の補助輪を外すや否や、一度も転ぶことなく自転車を乗りこなし――三分後にはウィリー走行ができるようになっていた。
どんなことでも一瞬で習得し、すぐに人並み以上の結果を出してみせる。
それが総元メイという人間だ。
「メイは、その才能を……このゲームでも発揮した。……物凄い速度で成長して……あっという間に、優勝候補と言われるようになった」
兄である節也には、その光景を簡単に思い浮かべることができた。
そうだ。言われてみれば、確かにその通りだ。
この世界にメイがいるなら、世界中にその名を轟かせていてもおかしくない。
ホワイトの正体がメイだったと言われても、納得できる。
「でも……そのせいで、フェルムに目をつけられた」
ルゥは悲しそうに目を伏せて行った。
「フェルムは、私たちを追い詰めるために……大きな組織を作った」
「……作った?」
祐穂が疑問を口にする。
「ちょっと待ちなさい……その大きな組織って、アイアン・デザイアのことよね?」
「……ん」
祐穂の問いに、ルゥは頷く。
「アイアン・デザイアは……私たちを倒すため
衝撃的な事実が発覚する。
メイの才能を知る節也ですら、その話には驚きだった。
――そこまで、メイは強かったのか。
鉄の四大貴天という、ただでさえ四強の力を持ったフェルムが、更に一大勢力を生み出さなければ勝てないと判断するほどの実力だったのか。天才なんて一言ではとても表せない。化物――その二文字が節也の頭を過ぎる。
「それでも……メイは、負けなかった」
ルゥは語る。
「メイは本当に、天才だった。……あのフェルムと、一対一になっても、負けなかった」
節也は掲示板に記されていた情報を思い出す。
鉄の四大貴天の性質は、一対一なら最強。それを凌いだというメイが、どれほど優れたプレイヤーだったのか……最早、想像すらできない。
「だからフェルムは、メイを倒すことを諦めて……その周りにいる人たちを、人質にすることにした」
その発言に、節也は顔を強張らせる。
「まさか……」
動揺する節也。
ルゥはいつもと変わらない表情で、続きを語った。
「一年前……アイアン・デザイアの部下が、フェルムの命令で……セツヤを攫おうとした。メイはそれを庇って……重傷を負った」
真相が――語られた。
ずっと疑問だった、あの通り魔事件。犯人の思惑も、メイが何処に消えたのかも、全てが謎だった。
だが今、遂に真相が明らかになった。
敵はアイアン・デザイア。通り魔の目的は――節也を人質にすることだ。
「通り魔の目的は……俺だったのか」
節也が呟く。
重たい現実がのし掛かってきた。メイはただ襲われたわけではない。――節也を庇って、刺されたのだ。
「重傷を負ったメイは、地球では治療できないと判断して……すぐに異世界へ転移した」
メイが消えたように見えたのは、異世界へ転移したからだ。異世界には、地球にはない治療の手段がある。回復アイテムもあるし、天使の中には治療用のスキルを持つ者もいるだろう。
「でも……どのみち治療は間に合わなかった。……だから、特殊なアイテムを使って、身体を封印した」
「……封印?」
訊き返す節也に、ルゥは頷く。
「メイは今……別の大陸で、眠っている」
そこで漸く話が繋がった。
封印というものがよく分からないが、どうやらメイは今、怪我が原因で目を覚ませない状態にあるらしい。
「封印の間際……メイは私に、セツヤのところへ行って欲しいと告げた。だから私は……今、セツヤと一緒にいる」
そこまで語って、メイは小さく吐息を零した。
だが、その話に納得していない者もいる。
「……まだ、質問に答えてないぞ」
節也はルゥを睨んで言う。
「ルゥ。なんで今まで、それを黙っていた」
今にも殴りかかりそうな勢いで、節也は訊いた。
「メイがいる大陸は……凄く、危険。だから……もしセツヤに、才能がないなら……何も言わないでおこうと、決めていた」
「才能……?」
「私を使いこなす才能」
小さな声で、しかしはっきりとルゥは言った。
「今日の、アイアン・デザイアとの戦いで……セツヤにも、才能があると分かった。……だから、説明することにした」
ルゥの言葉を聞いた節也は、思わず歯軋りする。
「なんだよ、それ……」
節也は強く拳を握り締めた。
「じゃあ、もし俺に才能がなければ……この話はしないつもりだったのか?」
「……ん」
ルゥが肯定する。――瞬間、節也の怒りは沸点に達した。
だが、節也が握り締めた拳を振るう直前。
「貴方を守るって……メイと、約束したから……」
ルゥは、静かに告げた。
過去の約束を尊ぶ少女の姿を見て、節也の胸中で渦巻いていた怒りが霧散した。
メイなら……あの妹なら、そんなことを言いそうだ。
ルゥはただ、メイとの約束を守っただけに過ぎない。
「話は……これで、おしまい。……黙っていて、ごめんなさい」
ルゥは謝罪と共に話を締め括った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます