第5話 一方的で、不条理で、退廃的で
「――――と、いうこと。わかった?」
僕は倉井戸に昨日の出来事を事細かに、とても丁寧に説明してもらった。のだが、その内容はやはり理解できない。
要約するとつまりこういう事らしい。
・自殺しようとしている僕を偶然にも見つけた。
・止めようにも止め方が思いつかなかったので偶然持っていた吸血鬼になれるワクチンを使って止めた。
・吸血鬼になった以上何をしても死ねないからとりあえずここにこい。
「それで――――吸血鬼にしたと」
僕が死のうとしていたから。そんな理由で僕は『鬼』にされたのか。人外の化け物、怪異という存在に。納得がいかない。いくわけがない。
「そうよ」
「無責任な」
「うん。無責任かもね」
「で、どうやったら人間に戻れる?」
「どうせ戻ったってまた死ぬつもりでしょ?」
そうだ。まさにその通り。
「あることにはあるわよ。人間に戻る
「はぁ?」
「あなたに打ったモノはね、吸血鬼に近づけてみた贋作。言ってしまえば失敗したコピーよ。でも逆にメリットもある――――例えばそうね、日光を浴びても平気でしょ?」
僕は今日初めて、昨日彼女がポケットから出したものが、注射器であることを知った。でもどういうことなのだろうか。吸血鬼というものはウイルスのように鬼を通して感染するものだ。偽物であるなら少しは納得がいくが―――。
「たしかに。なにも変化はない」
吸血鬼の弱点は僕が知っている限りでもいろいろある。日光に弱い。銀の武器に弱い。十字架を見ると自分の罪深さを思い出して自責の念に駆られる。にんにくが苦手。川など流れる水の上を渡れない。入ったことのない建物には招かれない限り入れない。杭で心臓を貫けば死ぬ。などなど弱点は多い。まぁ日光以外に関してはまだ試していないし、試すつもりもない。
「これは偽物ならではのことなの。ホントの吸血鬼なら日光を浴びたりしたら格段に能力が下がるわ。まぁ本物ならそれでも十分強いんだけど」
これでようやく自分が持っていた疑問が一つ解消された。なぜ僕は注射なんて方法で吸血鬼にされたのか、だ。普通の吸血鬼のイメージとしては血を吸い、そして眷属を増やしていく。だが、本当の吸血鬼ではないというのなら理解できた。
「結局メリットないのでは?」
呆れた顔でそう言うとすごい顔で睨まれた。
吸血鬼が太陽に焼かれるというのは、ある映画から始まった話で、本来の伝説にそんな話はない。というのをどこかで聞いたことがある。彼女の説明の仕方では、本物の吸血鬼も太陽の下では弱体化するものの、灰になるなんてことはないらしい。
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