閑話 白銀撤退/おいてけぼりは猛追する

「あーあ。すごいことになった。これじゃあボクだって他の連中に蜂の巣かなぁ」


 青咲紡稀によって、予告通り海溝の底に沈められた白銀の旧血種。彼がやっとの思いで海面に浮上した頃には、全てが終わっていた。

 同じ旧血種である白銀が、黄金の異常を察知するのは簡単だ。


「紅蓮とかマリーあたりが、どうせボクをシバきにくる」


 紅蓮とマリー。どちらも旧血種の名である。後者の「マリー」は愛称でマリーゴールドというのが本当の名前ではあるが。


「――――ま、いっか。ボクは知らなーい。報復なんてメンドウだし? しばらくは身内からもひたすら逃げることとしましょう」


 黄金が前代未聞の危機であることは、白銀も理解している。けれど、楽観主義である。仲間がどうなろうが自分に危機が及ばなければ関与することはなく、人間に対しても比較的友好的な部類に入る。

 黄金が失墜したところで白銀の被る損益などはほとんどなく、あるとすれば同じ旧血種から指を指される程度。しばらくはほったらかしにしておくつもりらしい。


「金ピカがボクの前に顔を出すの、次は何十年後かなぁ」


 はっはーと笑いながら、地平線の先まで何もない海を漂う白銀。陸地へと戻るのが面倒だったのか、彼はそのまま一週間、海の上だった。


「流石に、死んではいないでしょ。ボクらは不死なんだ。不死ってのは絶対に死なないって意味じゃん? そう簡単に理屈が覆るのは困るって話だよね~」


 ◆ ◆ ◆


「挨拶もなく帰ってしまうなんて、本当に困ったお兄様」


 螺線久遠はそんなことをぼやきながら。

 何故か日本にいた。


「私のお兄様。すぐに、追いつきますから」

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