第17話 真実までの羽休め/にかいめ

 ◆


【二日後_時雨家の屋敷にて】

 

「そんなことがあったんですか」


 螺旋巴との戦闘、和解があったその二日後。

 時雨さんのお呼び出しで僕は彼女の家を訪れていた。

 話の内容はというと、「倉井戸さんと宿泊したって本当ですか!」というもの。まぁ、同じ家で暮らしているんだから今更そんな事言われても。という気もしたのだが、妙にあわててたし、変な勘違いをしていたようなので、事の顛末を簡単に説明しにやって来た。

 

「自分の家の事情に、彼女を巻き込こんでしまった」

 

 こんなかんじに。

 もちろん、それ以上は話さないし、話せない。

 これ以上彼女を魔術こっちの世界に巻き込んではいけない。

 この場所では暁にも姿を消してもらっている。


「大変だったけど、色々分かったし、すっきりしたよ」


 まだ分かっていないことも当然ある。でも、肩の重荷が降りたのは本当だ。もう、何か不安なものも、自分自身への疑心暗鬼みたいなものもなかった。


「少し、雰囲気変わりましたか?」


「え?」


「なんだかこう、以前の青咲くんの雰囲気は――――例えるなら弱々しい雨だった――ような気がするんです」


 僕には似合わない詩的な表現だ。


「じゃあ、今の僕は?」


「青空――穏やかな風が吹く青空――みたいな」


 言ってることが恥ずかしくなったのか、馬鹿らしくなったのか、苦笑する。

 でも案外、自分でも気がつかなかったけど、そうなのかもしれない。


「青咲君、すごい変化しています。学校で会ったときは――正直危ない人かなって思いました、けど」


「まぁ、間違ってないと思うよ」


 やっぱり誰が見てもやばそうなヤツだったのかと失笑してしまう。


「というか、なんで僕が倉井戸と出かけたことを知ってるんだ?」


「あ、それはあの、烈火ちゃんが――――」


「ということは倉井戸が適当な嘘を言ったのか」


 アノヤロウまたふざけたな。

 これ以上変な所に飛び火しなければいいけど。


「大騒ぎだったみたいですよ。盲杖桜さんとそのお友達が特に」


「うわー。めんどくさそうだなぁ」

 

 もう既に遅いかもしれない。


「私、青咲くんの事、好きですよ」


「――――――時雨さんどうした突然」


「あ――――いえ。私はどうなってもずっと、こうやって青咲くんと過ごしたいなって」


「お茶会ならいつでも呼んでよ。どこにいたってくるからさ」


 手を振りながら、立ち上がる。


「そろそろ行くよ。今日はありがとう」


「青咲くん」


「ん?」


「二学期、学校で」

 

 爽やかに微笑む彼女。

 

 そうだった。あと一週間と少しもすれば二学期が始まる。

 今までボーッと過ごしていた僕にとって、学校はもう別世界。転校初日みたいな気持ちで行かなきゃならない。不安なんてないが、色々と心配ではある。


「時雨さん」


「はい?」


「一緒に登校、しない?」


 思わず、こんなことを口走ってしまう始末。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る