第8話 強制的に事は進む
「嫌よ」
「嫌です」
僕と同じタイミングで倉井戸も反応した。
そりゃそうだろう。
「ちょっと香夜さん。どういうこと?」
倉井戸の目がきっとなった。
僕も青ざめながら反論する。
「そうですよ。若い男女が一つ屋根の下ってそんなこと大人がさせていいんですか――――」
そんなこと、同居なんてしてしまえば健全な男女同士であれば、色々あるわけで。まぁ、僕は健全な人間ではないと思うけど―――。
「いいじゃない。僕が許可する」
なんでアンタの判断で許されるんだよ。
「あのね、香夜さん。言っていい事と悪い事がある」
「蒼ちゃんが注射器を使ったからいけない」
お師匠さんは薄ら笑いを浮かべている。
「――――チッ」
倉井戸が心底嫌そうな顔で舌打ちして、反論しなくなった。
「ならここに僕が住むのは?」
咄嗟ながらいい案だと思う。おそらくだけど部屋の状態からして香夜はここで寝泊まりしている。ここなら男同士だし、全然問題ない。彼も許してくれるはず。
「だめだめ。ここには魔術に使う貴重な道具や壊れやすい物が多いの。それに巴くん、ここから高校通学するなんて不便でしょ?電車賃もいるわけだし」
赤石市から足屋市までは片道30分ほどかかる。そこから高校までバスで登校するとなると、一か月で計算すれば余裕で一万円は超える。
彼の言う通り、不便なのは違いない。
それなら少なくとも赤石市内に住んでいるであろう倉井戸の家、もしくは僕の家で同居した方がいいというわけだ。
だめか。クソっ。いい案が思いつかない。しかしまだ香夜さんは追い打ちをかける。
「それに巴くんって何に対しても興味ないんでしょ?じゃあ性欲とかもないんでしょ?じゃあ問題ないじゃん。言っておくけど僕は本気だよ」
それを言われると困る。実際事実ではあるんだけど、それでも年頃の男の子なわけで、性欲が全くないかと言われるとそうじゃない。他の人に劣ってはいても存在する。
「……」
「……」
「……」
しばしの沈黙。その間も香夜さんはにまにまとした気色の悪い顔で笑っていた。
「はぁ。わかったわ。三か月だけなんでしょう?」
「え?」
思っていたより彼女はすんなり引いた。燃えていた怒りのオーラもすでに消えている。
「待ってくれ、僕はまだ認めてない」
「あなたに決定権はないわ」
「……」
ニヒルな顔で彼女は言う。
「よし、それじゃあ決定!じゃあ巴くんは蒼ちゃんのところで同居ね!さっそく明日から開始でいいかい?」
「――――――わ、かりました」
いや、分かってたまるか。
だがしかし。こうなった原因は全て僕があのとき死のうとしたからだ。抵抗することはあきらめよう。ここで抵抗しても無意味な気がする。それに僕も駄々をこねる子供じゃない。これは神様からの罰だと捉えればいい――――納得はいかないが。
「よし、それじゃあそんな従順な巴くんにはこれをあげよう」
僕の残念無念な表情を見て何か感じてくれたのか香夜さんは仕事用のデスクから桐の箱を取り出してきた。そして、ごと。と、箱はテーブルに置かれた。
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