第6話 Return to.......
「まあ、それで、元に戻る道具?はどこにあるんだ?」
「まだない」
「いや、さっきあるって……」
「戻すために必要な材料はある。だけど人に戻る薬――のようなものはまだない。作ってないから」
僕を簡単に死なせないようにと企てたのだろうか。
「つまり僕にはどうしようもないと……」
はぁと大きくため息をつく。
僕は何を目標に生きていけばいいんだろう……。死ぬのが目標ってのもおかしな話なのはわかっているわけだけども。
「当たり前よ。勝手に人間に戻って、勝手に死なれたらこっちは大損よ」
「大損?」
「そう。注射器は元々私が使う予定だったんだから」
はぁとこめかみをおさえながら彼女は言った。
「じゃあ僕を助けなかったらよかったじゃないか」
思ったことを率直に伝える。 そこまでして僕を助けるメリットなど存在しない。昨日も、今も。救う必要なんて一切合切なかったし、助けるにしてもあの方法をとる必要はなかったはずだ。それともなんだ、僕が説得で自殺をやめるような人間ではないと、あの瞬間に見抜いたとでもいうのか。
「あの時も軽く話したけどね、じゃああなたは目の前で死のうとしている人を助けずに自分の目的を優先するのね?悪いけどそれは私にはできない。」
こいつは馬鹿か。といわんばかりの顔で呆れながらそう言った。
「なに」
僕があからさまに嫌そうな顔をしてしまったのか、倉井戸は少し苛立っていた。
「別に」
「そ。話が少し逸れたけど、これからあなたには私のボディガードをやってもらうから」
唐突にそんなことを言われた。
「なんで僕がそんなこと」
余計なことに足を突っ込むのはごめんなんだが。
「そうじゃないと人間に戻さない」
それは非常に困る。が、あえて僕はこう言った。
「この体に満足して戻さなくていいと言ったら?」
そう、この体、他人からしたら大喜びするものかもしれないのだ。僕は吸血鬼になってから身体能力が著しく向上した。視力、聴力、筋力などなど、一般の人間では不可能な領域に僕は足を踏み入れた。それは刺激を求めている人間からしたら、宝の持ち腐れだろう。
「そのときは拷問かな」
魔法使いならそれくらいはすると若干は思っていた。残念ながら僕に拒否権はないようだ。この魔女め。
この場から逃げようと思えば身体能力が高まっているので逃げられるだろうし、ここにいる二人を力で制圧することも可能かもしれない。だけどやめた。なんせ相手は魔法使い。僕を吸血鬼にしたほどの知識を持つ人間だ。もしかしたら誰も知りえないような魑魅魍魎の類を有しているかもしれない。魔法を使ってよくわからないことを僕の体にまたされても困る。だから僕は仕方なく言うことを聞くことにした。
「わかったよ」
「あら、意外。すんなり言うことを聞くのね。まだ魔法のことも信じないと思ってた」
吸血鬼は百歩譲って信じたとしても、まだ魔法なんてものは見せてもらっていないわけで、それは信じていないわけなんだが。
「どうせ逃げ道はないんだろう?それに、」
それに、どうせ僕は。
「僕は興味がないんだ。自分がどうなろうと。相手がなんだろうと」
ふっと僕が笑うと倉井戸と香夜さんが同時に目を丸くした後、
「「君、厨二病だね」」
そう二人は笑った。
「わ、笑うな!」
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