第8話 事後処理は不器用に
彼女が動き始めたのを見た瞬間、黄昏は一瞬にして姿を消す。もうあまり関わらないようにしているのだろうか。
「お、おはよう」
戸惑いながらも放った第一声。
彼女は次第に目を丸くして、頬を赤くする。
「あ、ああ、青咲くん!」
困惑するのも当然。夜中に突然起こされて散々な結果になった後、まともな睡眠を取らずに気絶していたんだから。
「あ、え、えーっと」
顔を真っ赤にして髪の毛を手でわしゃわしゃと整える。
————なんか、可愛い。
『ぐふぉ』
黄昏が嘲笑したのが感覚で分かった。
(お前、僕の思考を読もうとするなよ)
時雨さんは数秒その場でわたわたすると、少し落ち着いたのかこちらの方をじっと見つめてきた。
何をどう話せばいいんだろうか。頭の中で色んな情報が脱線しているけど、東条さんに言われたことだけは守らないと。
「時雨さん」
「は、はい」
「目が覚めて早々、こんな話、嫌かもしれないけど、その、黄昏の、事なんだけど」
「—————」
彼女の顔は一瞬にして暗いものとなる。
時雨さんと黄昏、それらを取り巻く環境を把握したわけじゃない。けれど、僕がやった事はきっと彼女に辛い思いをさせている。
裏付けだってある。だけどほとんど僕の勘だ。時雨さんのあの泣いた顔や、今浮かべている重い表情を見ればそれは誰だって気が付く話でもある。
「黄昏は、僕が預かる。この刀、怪異は危険な存在だ。命を吸う、呪いだ。時雨さんには重すぎる」
「青咲、くんが―――で、でも!」
「時雨さんが考えていることは分かるよ。でも僕も―――普通の人間ではないからね」
不死身の怪物。
吸血鬼。
たとえ贋作であったとしてもその力は計り知れない。
まぁ、僕が詳しく知らないというのもあるんだが。
「そ、その青咲くんは—――――吸血鬼なんですか?」
突然投げかけられたその質問に、一瞬口がキュッとなる。僕の正体が化け物。そんなことを彼女を口にしていいわけがない。うまく、ごまかさないと――――。
「否定はしない―—―。だけど魔術師なんてきっとこんなものだよ」
「魔術—―?」
あの眼鏡の魔術師さんは何も話してなかったのか?
もう彼女に質問させようとするのはよくないだろう。彼女が話始める前に僕は続けて話す。
「とにかく、黄昏の事は僕に任せてくれればいい。悪いようにはしないから」
「そう—――ですか」
どこか納得していない様子だけれど、これはもう仕方がない。他の専門家のアドバイスをほとんど無視してこんなことやってんだから。
「そうだな。もう、こんな時間だし、また今度詳しく話さない.......?もう空が明るいし」
ゆっくりと立ち上がると窓の方へと進む。
「あ————は、はい」
鳥が鳴き始めている。本当に朝になってしまった。
自分が覚悟して行動したこととはいえ
『なんというか、お前さん、人と関わるの下手だな』
(うるさいよ)
情けない。それは自分でもよく分かってる。勢いで行動に移したものの、こうも上手くいかないとは。
自覚しているものの、黄昏にその点を突かれると腹が立つ。
「よっと」
窓から出ると、急いでその場を後にする。時雨さんの事もあるけれど、倉井戸の事も心配だ。あいつは僕を助けようとして、それで大怪我をした。それも暴走した僕の攻撃で。
目が覚めたら大激怒か、口を聞いてくれないかの二択だと思う。怖いけど、謝らないといけないのは当然の事だ。それに、普通なら謝っても許されないようなことをしたんだ。
「そ、それじゃあ。また連絡するから」
「は、はい」
魔術師でなきゃ、いや、魔術師だったとしても死んでいたかもしれない—————。
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