第18話
ごおっ!
ドラゴンの咆哮が指向性の衝撃波と化し、大気を無残に引き裂きながら向かう。
ひゅっ!
迎え撃つのは大気を裂いて飛翔する刀剣や矛。
氷のように煌めく刃の群れが衝撃波を受けて軌道をそらされてあちこちに散る。
互いに攻撃を相殺される。
鬼としての異形をさらけ出した大嶽丸には苛立つような様子はなく、小山のように悠然と構えている。
苛立つように長い首をうねらせ、ドラゴンは蝙蝠のような翼を開いて揺らめかせる。
薄闇の中でなお、濡れたように艶光る巨体が音もなく浮かび――そのまま大嶽丸のそばに空を滑るように距離を詰める。
裂けたように口を開く。また、衝撃波を出すつもりか。否――
(ま・・・まさか炎とか噴くつもりじゃあ)
近くにごろがる岩の陰に隠れつつ、戦闘を見ていた(何せできることがない)ひょうすべは不吉な想像を巡らせるが――
生々しいほど赤黒い口腔から音もなく。煙のようにどす黒い気体が口から漏れ出て――
轟!
次の瞬間、派手な音を立てて茜色の光の群れが、どす黒い気体に突っ込み、勢いよくかき消した。
『大方、毒の吐息だろう。悪いがまともに食らう気はない』
冷ややかに返したのは、大嶽丸だ。
手を振りかざすとさらに色鮮やかな光が生まれる。
「・・・え?」
よく見ると、それは大量の火の雨だ。薄闇を裂き轟々と燃え盛る火炎は、無数の矢を形作って、群がるようにドラゴンに降り注ぐ。
轟!
降り注ぐ炎の矢の群れを食らい、黒い巨体が地をえぐりながら勢いよく吹き飛ばされる。
低く唸り声を挙げつつ、それでも身を起こす。鱗はひび割れ、無残に焼けただれている部分も多いが、まだその身を貫通できた攻撃は一度もない。
『よく耐えた。では次だ、行くぞ』
(・・・え)
唖然とする間もなく、今度は遠くから轟き。思わず音が聞こえてきた方向に目を向ける――まもなく、白い光が虚空を割いてドラゴンに向かう。
どうやらさっきの音は雷鳴だったらしい。稲光をまともに食らったドラゴンは再び地に伏すも、しばらく痙攣した後に身をゆっくり起こす。
その耐久力にも唖然とするが――
(さっきから、ド派手な神通力のオンパレードだなあ、大嶽丸さん。いやまあ伝承通りだけど。普通の場所で戦っていたら、山が二つか三つぐらい軽くけしとんでいるんじゃあ・・・)
恐怖だの戦慄だのを通り越して、悟りを開いたように静まりかえった頭で、ぼんやりそんなことを考えながら、ひょうすべはちらりと視線を移す。
しゃああっ!
こちらは轟音のような吠え声ではないが、やはり耳をすると背筋が凍る。
ぬめるように輝く丸太のような身をうねらせながら、蛇はつぶれた目から黒い血を垂れ流し、酒吞童子へ突き進む。
轟!
派手な音をたてて吐かれた業火がその身を包み込み、容赦なく焼き上げる。
「・・・え」
思わず目を丸くして凝視する。炎を吐いた主――酒吞童子を。
「・・・火なんて吐けたんですか?」
『うん。まあね』
異形と化した姿からは、いつも通りの飄々とした声が聞こえる。
そういえば、首だけになってもしばらく戦ったとかいう逸話の中でそんなことやっていたような――などと思っているうちに。
火炎に身を包まれ、蛇は身をよじるも延焼は止まらない。焼け爛れる異臭と音を立てながら、なおも酒吞童子にまっすぐに突っ込んで――
『ごめんね』
いつもどおりの短く飄々とした物言いだが、真摯な響き。
酒吞童子が手にした刀剣をふるうと、鈍い音を立てて頭部が切り落とされる。
なおももがく頭部に無言で歩みより、再び武器を一閃。
どす黒い液体をまき散らしながら、大蛇の頭部は原形をとどめぬ肉片として飛び散った。
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