第13話

「あの……それで、これからどうするつもり……なんでしょうか?」

 ひょうすべがためらいがちに、おそるおそる問いかけたのは、酒吞童子らと共に屋敷の中に戻って一息ついて後。


「いやあ……どうしたもんだろうね?」

 酒吞童子はそう返して、頭をかく。他の二人は無言だ。

 簡素だが清潔な和室に、困惑交じりの沈黙が満ちる。


「ちょっと色々ありすぎて考えがまとまらないなあ……自由奔放だけど、頭の回転は悪くなさそうだったし。だからこそ、たちが悪いなあ……」


 先ほどの女魔術師のことを指しているのだろう言葉には、薄っすらと辟易したような様子が漂っている。


「まあとりあえず、あのお嬢さんは君に興味を無くしたようだから、ちょっかいかけてくることはないと思うが……どうする?」

「え?」


 酒吞童子から問いかけられて、ひょうすべはすぐに返答できずに口ごもる。


「……その……そうすると、代わりに興味を持たれた彼女が危ないんじゃあ・・・」

「……大丈夫です」

 ひょうすべの言葉が自分のことを指していると気づくと、玉藻前が相変わらず言葉少なに返すが、相変わらず表情が無い。

 月明りで染めた絹糸のような髪と、切れ長の目の中にはめた透明度の高い硝子玉のような明眸、白磁のような肌。

 一つ一つが精巧な作り物のような、玉藻前の無機的で玲瓏とした美しい風貌を見ていると『男を誑かす妖艶な毒婦』のイメージからは程遠い。

 むしろ先ほどの名称不明の女魔術師の方が、『妖艶な毒婦』と呼ぶにふさわしい容姿だったなとひょうすべはぼんやり思った。

 


「ははは……まあねえ……まあ真正面からどころか、隙をついても彼女にはかないそうにないけど……。しかし、そんなことは彼女も分かっているだろうし。さて、どんな手で来るのかねえ……。正直、予想がつかないな」


そう呟いて、酒吞童子はため息を漏らす。


「……そ……その……」

「ん?」

「俺がいたところで、大した役には立てそうもないというのは分かるんですが・・・お世話になった恩を少しでも返したいので、雑用でも何でもやらせていただきたいんですが……」

「……恩とかそういうのは考えなくていいんだよ。そういうつもりで、君を助けた訳じゃない」


 ひょうすべが何とか言葉を絞り出すと、酒吞童子はくっきりとした眉の根を少しだけ寄せる。


「その……それでも、俺はそうしたいと思うし、このまま帰ってもすっきりしないと思うので……」

「本人がそうしたいと望んでいるのならば、我や汝がどうこう言えるものではないだろう、酒吞童子」

 それまで黙していた大嶽丸が口を開く。

 酒吞童子はそれに対して答えず、困ったように眉をひそめていたが


「……まあ、とりあえず……一度何か食べようか」

「……へ?」

思わずひょうすべが声を漏らすも、相変わらずの赤毛の鬼は相変わらずの飄々とした態度を変えぬまま。


「腹がへっては何とやらって言うだろう?考えてみたら、バタバタしてて何も口に入れていなかったな……」



 

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