第14話

 出来上がった食事は、思いのほか普通だった。

 豆腐や青菜が浮かぶみそ汁や、炊き上がった白米や、目玉焼き。どこの家庭でもお目にかかれそうなありふれた内容。ただ、目玉焼きにかける醤油は甘みが強く、九州の物だと一口食べればわかる。

 それを除けば、ごくごく平凡なだけに――

(シュールだなあ・・・)

「・・・どうしたの?食欲ない?」

「あ、いえ・・・おいしいです」

 思わず食事の手を止めてぼんやりとしてしまっていたひょうすべに、酒吞童子から声がかかる。

 屋敷の一室。

酒吞童子だけではなく、大嶽丸や玉藻の前も卓の上に並ぶ料理に手を付けている。ごく平凡な食事の風景だが――そこにいるのが数多の伝承で語り継がれる大化生達というだけで、筆舌に尽くしがたい違和感を覚えてしまう。


 口には出せぬ感慨をぼんやりと味わいながら、ひょうすべが食事を済ませると他の3人も済ませ、各々別の部屋に入ったり、出かけたりしてしまう。


 『君は少し前まで、ケガして寝込んでいたんだからもう少し休んでいなさい』などと酒吞童子に言われて、布団が敷かれていた部屋に戻るも


「・・・寝れない」

 一応横たわっていたみたものの、中々意識が途切れず思わずつぶやいてしまう。色々あって疲労はあるのだから、眠ることができるうちに眠った方がいいと理解はしている。

 だが眠ろうとすると、かえって意識が冴えてしまいあれやこれやと考え込んでしまう。

 何もしていない分、かえってつらい。


「・・・どうしよう」

「開けるよ」

 困惑交じりのひょうすべの独り言とは裏腹に、涼し気で飄々とした声が響く。

 慌てて身を起こすひょうすべの前で、襖がすいと開けられる。


「ただいま。これよかったら食べるかい?」

 酒吞童子は常と変わらぬ様子で、手にしたものを勧める。


「・・・これ・・・」

 小さな梅の刻印が入った焼餅を手にして、ひょうすべがつぶやくと

「ん?梅が枝餅だよ。知らないのかい?」

「いえ知ってますけど・・・」

 かつて一人の男が左遷された地の特産品とされるそれ――食欲をそそる香ばしい香りを漂わせる菓子を眺めて

「・・・えーと、ここって大宰府に近いんでしょうか?」

「まあ、人の足だと多少かかるだろうけど、いけない距離でもないかな」

 さらりと答えが返ってくる。そういえば、意識がない状態で連れてこられたので、ここがどこかも知らなかった。


「初めて食べるけど、結構おいしいもんだね」

「・・・初めて、来られたんですか?」


 気軽にぱくつく酒吞童子の姿を眺めて問いかける。


「まあ、そうだな・・・玉藻の前が、祭神として祀ってある神社が九州にもあると聞いて、3人で一緒に行ってみたことがあるんだけど・・・その時は大宰府には寄らなかったからね」

「・・・そうなんですか?」

 初耳だった。というか、『大妖怪』のイメージが強い彼女が神として祀られているということ自体が、なんだか不思議に思えた。


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