第7話

轟!


 唐突に響いたすさまじい振動が眠りに沈んでいた意識を揺さぶる。

 のみならず、強引に浮き上がらせて、眠りの中から引きずり出した。

 


「……な……なに」

 まだ寝ぼけ眼をこすりながら、ひょうすべが身を起こす。


「やあ、おはよう」

 この場にそぐわぬほど飄々とした声であいさつをしたのは、ふすまを開けて部屋に入ってきた着流し姿の酒吞童子である。


「あ……あの、一体何か?」

「いやあ……大したことじゃないんだけどね」

 ぽりぽりと頭をかきつつ、緊迫感や緊張感のかけらも見えぬ様子で酒吞童子はさらりと告げる。

「どうも、敵襲受けてるみたいでね」

「……」

 あまりに太平楽な調子で放たれた言葉の意味を測りかねて、沈黙した後。


「それって……『十分大したことだ』ていう突っ込み待ちなんでしょうか?」

「いやまあ……そういうわけじゃないんだけどね」


 ひょうすべが思わず半眼でそう問いかけると、酒吞童子は苦笑しながら飄々と手を振って


「防壁もあるし。ここには大嶽丸の旦那や玉藻の前や、一応俺もいるから大丈夫だとは思うけど……」

「……防壁……ですか?」

「ああ……えーと、結界ってわかる?」


 轟!


 再び、雷霆のごとき轟音と振動が室内を満たす。

「迎撃するか?」

 ふすまを開けて入ってきたのは、今度は大嶽丸と玉藻の前だ。

 大嶽丸はあった時と変わらぬ和装だが、墨を流したような黒髪はポニーテールに結い上げている。玉藻の前は藍色の浴衣姿だ。寝間着替わりなのだろうか。

 最初の男装めいたかっちりした装いとは違う、たおやかな姿にひょうすべは束の間、口を開けて――。


(……って見とれてる場合じゃなかった)

 我に返って首を振る。


「旦那が迎撃したら、シャレにならないから。えーと……おーい、襲撃者の皆さん!」


 突如、酒吞童子が声を張り上げて外へ呼びかけるのをひょうすべはぎょっとして眺める。


「ひとまず攻撃中止してくれません?ひとまず俺が出ていくんで」

「ちょ……」

 思わずひょうすべが目をむくのもかまわず、両手を挙げて酒吞童子が外へ出ていく。

 大嶽丸や玉藻の前も無言で後に続く。大嶽丸はその淡い金の瞳を、いっそう鋭くぎらつかせている。玉藻の前は相変わらず無表情のまま。


その背中を追うように、おっかなびっくり視線を外へそそぐと――


 以前自分たちを襲った人間たちがいた。

「……!」

 口をついて出そうになったうめきをかろうじて抑え込む。

 服装は変わらないが、以前より人数が多い。携えている武器も豊富になっている。弓矢だけではなく、刀剣や重火器の類もある。

 ただ銃火器の場合は、よく見ると些か古めかしい。

 少なくとも最新式とは言えなさそうなものばかりだ。それでも武器そのものが纏う威圧感は隠しようもなく、思わずひょうすべはゴクリと息をのむ。 

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