第26話
混乱めいた逡巡を切りあげ、モニカはたどたどしく答えた。
「じゃあ、う……上からで」
「お楽しみはあとに取っておくタイプなんだね」
「えっ? そういうつもりじゃ……あぁ?」
彼の手が右も左も脇腹を這いあがって、ビキニのストラップに指を捻り込ませる。それを前方にスライドさせることで、てのひらにも容易く侵入されてしまった。
ジェラール自身も興奮で息を乱す。
「この感触……! ほんと病みつきになるよ。たまらないな」
「ま、待ってってば! あたしはまだ、はあ、心の準備くらぃ……んっ、あふぁあ」
柔らかな膨らみを揉みしだかれるたび、快感が走った。肩の力が抜け、痺れは背筋の芯まで届く。単なる刺激のみならず、『彼に弄ばれている』被虐感も増してきた。
胸の谷間にもクリームを塗りたくられながら、曲線をなぞられる。ビキニの中でもジェラールの手は弱点の突起を探し当て、指を擦りつけてきた。
「ひあぅ? そ、そこはしちゃ……!」
「そんなに気持ちよさそうなのに? もっと正直になってごらん」
その先端が見えそうなくらいにビキニを捲られ、モニカの小顔が羞恥に染まる。さらにクリームを追加され、愛撫はねちゃねちゃと淫靡な音を立てた。
「そろそろいいかい? モニカ」
ジェラールが前のめりになってモニカを抱き込む。
「ひはぁああっ? だ……だめよ、ジェ、ジェラール!」
その右手がおへそを下に抜け、ビキニのショーツへと潜り込んでしまった。あの夜、アンナにもされたように手探りで、乙女の秘密をこじ開けられそうになる。
「ほんとにだめっ、だから」
「正直になれ、と言ったはずだよ。ええと……こうかな」
ただ、すぐには指が侵入してこなかった。男性には正確な場所がわからないようで、それは同時に彼に経験がないことも意味する。
指の動きに怯えながらも、モニカはジェラールに問いかけた。
「……初めてなの? あなた」
彼にこれまで恋人がいなかったことを、確認せずにいられない。けれどもジェラールはむっとして、へそを曲げてしまった。
「嫌な言い方をするなあ。あのメイドのほうが上手かったって?」
とうとう指が同時に二本も入ってくる。
「それとも……きみはほかに経験があるとか?」
「あ、あるわけ……んあぃいいっ!」
たまらずモニカは両手で耳を塞ぎ、いやいやと身じろいだ。しかし粘音からも感触からも逃げられず、恥ずかしい蜜の量を自覚させられる。
「びしょびしょだね」
その一言がモニカの羞恥心を燃えあがらせた。
「い、いや! お願いだから、も、もう」
「まだクリームを塗ってないだろ? ……と、あの子はどうやってたっけ」
涙ぐむモニカの耳たぶを舐めながら、ジェラールは一方的に快感を強制してくる。
しかしモニカの頬を一粒の涙が伝うと、ぴたりと手を止めた。乙女の部分から指も引き抜いて、ビキニの裏をまさぐるだけになる。
「ちょっとやりすぎたみたいだね。機嫌を治してくれないか、モニカ」
「だったら、早く抜いて? こんなとこ、はあっ、見られたら」
恥ずかしがるモニカの横顔を間近で眺め、なお彼は悪戯を続けた。ビキニから食み出た指が、太腿の付け根を丹念に擦り抜く。
同時に左手はブラジャーの中へと戻り、美乳を押し揉んだ。
「早く抱きたいな。きみを」
無理強いするくせに囁き上手なせいで、モニカは反抗を享受とすり替えられる。
やっと解放されたところへ、アンナとブリジットが駆け込んできた。
「お待たせしました! ……あら、モニカ様?」
「な、なんでもないの。先に日焼け止めを塗ってただけで……」
情事がばれはしないかと、ひやひやする。
モニカとジェラールとの関係を知るアンナでも、まさかこの場所で耽っていたとは、夢にも思わないようだった。一方、ブリジットは苛立ちを募らせる。
「ジェラール殿! 言っておくが、私は断じて貴様を認めたわけではない。セニア様の件も忘れたつもりはないのだからな」
「肝に銘じておくよ。きみには敵いそうにないからね」
「くっ……ぬけぬけと」
ブリジットにとってジェラールは相性が悪すぎた。真っ向勝負をしたがるブリジットに対し、ジェラールはもっぱら側面からの搦め手を好む。そのためにブリジットの憤りは受け流され、暖簾に腕押しとなった。
荒ぶるばかりのブリジットを、アンナがどうどうと鎮める。
「まあまあ。せっかくのリゾートですので」
「う、うむ。姫様の前だしな」
もちろん水着姿の照れ隠しでもあった。ジェラールもブリジットのスタイルが気になるようで、ちらちらと視線を注いでいる。
……ふんっ。さっきはあたしに『我慢できない』とか言ってたくせに。
それでも水遊びを始めてしまえば、気分は一気に晴れた。美麗なリバーサイドをモニカたちだけで独占し、夏の太陽のもとではしゃぐ。
「おやめくださいったら、姫様!」
「冷たくって、気持ちいいでしょ? ほら、アンナも早く!」
ジェラールはサングラスを掛け、パラソルの下で寛いでいた。ところがアンナに萎んだ浮き輪を押しつけられ、目を点にする。
「膨らませていただけませんか? ジェラール様」
「へ? おれが?」
奥ゆかしいアンナに他意はないはず。例年は男子(クリムト)が膨らませているため、ジェラールに頼んだのだろう。
「わかった、わかった。きみは遊んでなよ。持ってってあげるから」
「ありがとうございます」
彼でさえアンナのペースに乗せられるのは面白かった。
あんなふうに困ったりもするのね、あのひと。
やがて正午に近くなり、別邸のメイドたちがバーベキューの準備に取り掛かる。アンナも水着の上に給仕用のエプロンをまとい、てきぱきと包丁を捌いた。
ジェラールがモニカにおかしな注文をつける。
「きみもエプロンをつけるべきだよ」
「え? ドレスじゃないんだし、いらないじゃないの」
「そうじゃなくって……ねえ」
結局、モニカやブリジットまでエプロンの着用を押しつけられてしまった。モニカとしては肌を隠せるため、抵抗はないのだが、だからこそ彼の意図が読めない。
「何がしたいのかしら? ジェラールったら」
「フェティシズムというものですよ、モニカ様。裸にエプロンをつけてるようにも見えますから、色々とご想像を掻き立てられるのでしょう」
「……くだらないわね」
男性の『嗜好』とやらには首を傾げたくなる。しかし呆れるモニカとは裏腹に、ジェラールはすっかり気分をよくしていた。
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