第18話

 これでは、まるで抱かれるのを楽しみにしている、素直な女。

「おれを待っててくれたんだろ?」

「……勘違いしないで」

 ふたり分のコーヒーを淹れ、モニカは彼の隣におずおずと腰を降ろした。当たり前のように肩に手をまわされ、距離が一気に近くなる。

「いいじゃないか。おれがきみを欲するように、きみもおれを欲すれば、ね」

「冗談じゃないわ。無理やり言うこと聞かせてるくせに……」

 反抗はするものの、拒絶はできなかった。今日の会合にしても、主導権はジェラールに奪われっ放しで、モニカやブリジットは指を咥えて見ていたに過ぎない。

 彼が独立を尊重する限り、ソール王国は今後も存続できる。逆に占領に踏みきれば、サジタリオ帝国に支配下に組み込まれるのは、もはや火を見るより明らかだった。

 それだけの実現力が彼にはある。

「おれのことが欲しくならないのかい? きみは」

「なりそうにないわね」

 もちろん、そんな彼に心まで支配されるつもりはなかった。モニカは顔を背け、己の矜持のためにも冷ややかな態度に徹する。

「……焦らすのが上手いなあ」

 ジェラールはモニカの髪を撫でつつ、コロンの香りを堪能した。

「ドレス姿のきみもいいけど、見せて欲しいな。メイドと買いに行ったんだって?」

「こ、この前のお店にね。アンナには誤解されちゃってるんだから……」

 力ずくで剥ぎ取られるような気配はない。それでもジェラールの手は力を強め、あたかもモニカを促すかのようだった。

 モニカのセミヌードを期待しているらしい。その欲求は純粋にも思えて、前ほど嫌悪感が働かなかった。モニカは覚悟を決め、自らドレスに手を掛ける。

「さ……最後まではなしよ。いいでしょう?」

「わかったよ。約束する」

 このような取ってつけただけの口約束、何の保証にもならない。しかしこうでも前置きしないと、勇気を振り絞ることはできなかった。

 花が咲くようにドレスが綻び、華奢な肩を覗かせる。

するとドレスにもひけを取らない、細やかなデザインのブラジャーが露になった。

 今夜の下着はピンク色を基調として、白のレースをあしらっている。まだ成長を続けている胸は、ゆとりをもって包まれていた。

 ジェラールの表情から笑みが消え、まなざしは真剣さを帯びる。

「し……下も、かしら?」

「ああ。いい子だね」

 こうも熱烈に期待されては、脱ぐしかなかった。

とうとうモニカはドレスを足元へと落とし、艶めかしい下着だけの恰好となる。

「こっ、これで……いいんでしょ?」

 恥ずかしくて、少しでも隠さずにいられなかった。胸の高さで両手をクロスさせつつ、ジェラールの熱い視線に全身を硬くする。

「いいとも。きみに無理をさせたくはないからね」

 あくまで紳士的にジェラールはモニカを抱き寄せ、耳元で囁いた。

「この気持ちをただの性欲と思われるのは、悔しいな」

「……ジェラール?」

 しかし穏やかな言葉とは裏腹に、彼の手はブラジャーの脇へと忍び寄ってくる。

「胸だけ、好きにさせてくれ。じっとしてるんだよ? モニカ……」

「え? ちょっと、待……ひあっ?」

 おへそを不意打ちされ、思わず声が出てしまった。こそばゆさとともに恥ずかしさが込みあげ、モニカの小顔はみるみると赤らむ。

 抵抗しようにも、彼に肩越しに覗き込まれては、首を振ることもできなかった。耳たぶを食まれるたび、じかに吐息を吹きかけられ、ぞくぞくとする。

「ほんとに待ってったら、んはぁ……ジェラール」

「まだまだ。これからだぞ?」

 それだけジェラールの興奮ぶりも伝わってきた。いつもの斜に構えた調子は失せて、モニカの感触に躍起にさえなっている。

 あたしなんかで、こんなに夢中に……?

 無理強いされているはずなのに、モニカの心は大いに揺さぶられた。

「柔らかいね。たまらないな、きみってやつは」

「い、いつまで触るつもり? 逃げたりしないから、放し……んふぁ」

 次は太腿へと手を這わされ、丹念に撫でさすられる。汗をかくほどではないものの、柔肌はほんのりと熱を帯び、感度を高めつつあった。

 曲線の外側に続いて、内側にも潜り込まれ、開脚のポーズを強いられる。

「脚を開くんだ、モニカ」

「で……できるわけないでしょ? そんなこと……」

 すでにモニカは羞恥で感情を荒らされ、息を荒らげていた。それでもきつく脚を閉じ、女の部分だけはガードを念入りに堅くする。

「おれの言うことが聞けないなら、おしおきだよ? それとも……こんなふうに力ずくで開かされるほうが、好きなのかい?」

「きゃあっ!」

 構わずジェラールはモニカを抱えあげ、自分の膝の上へと座らせた。そして王女の頑なな下肢を、両手でこじ開けに掛かる。

しかも目の前には姿見。モニカはみっともないM字開脚を自ら目の当たりにして、涙ぐむほど赤面した。その顔を両手で覆い、指の隙間から鏡を見詰める。

「い、いやよ、こんなの……!」

「本当は嬉しいくせに。パンツも気合が入ってるじゃないか」

 ショーツもブラジャーと同じピンク色で、レースが蝶の模様となっていた。デザイン重視のために下着としての機能は疑わしく、薄さが心許ない。

「これから夏だし、ふたりきりの時は、きみにはこの恰好でいてもらおうかな」

「じ……冗談でしょ? 恥ずかしくって、し、死んじゃうったら……」

 辱めの言葉を掛けながら、ジェラールはモニカのあられもない有様を眺めていた。モニカ自身にも見せつけるように抱えなおしては、意地悪な調子で囁く。

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