第31話
「こっ、こんな恰好させておいて……何が『仲直り』よ? あなた」
今夜のモニカ王女はハイレグカットの黒のスーツをまとい、胸の谷間を大胆なほどに曝け出していた。蝶ネクタイで愛らしさも際立たせて、ジェラールの目を引く。
脚は網タイツでぴったりと覆われていた。ハイヒールも相まって、妖艶な色合いが王女の脚線美を引き締める。
「お耳が足りないじゃないか、モニカ」
「わ……わかってるってば」
ウサギのお耳を乗せれば、帝国カジノで定番らしいバニーガールが出来上がった。猛烈な恥ずかしさに駆られながら、モニカはせめて胸の高さを両手で隠す。
「可愛いウサギさんだね。飼い主はおれだぞ」
「……最低だわ」
傲慢な彼には逆らえず、悔しかった。
それでも以前のように彼と会話が成り立ち、心のどこかで安心もする。
こういうところがなかったら、あたしだって少しは……。
ジェラールはモニカの身体を求め、モニカはそれを受け入れる――それがふたりの、歪であっても自然体でいられる関係だった。
「それで? お酒でも注いであげればいいのかしら」
「いいや、ゲームでもしようと思ってね。……さあ、きみらも入っておいで」
「……えっ?」
ところが、奥のほうから意外な人物が現れ、モニカは瞳を強張らせる。
自分と同じ恰好を強要されたらしい、二匹のバニーガール。ブリジットとアンナはおずおずと歩み出て、モニカとあってはならない対面を果たした。
「あ、あなたたち……どうして?」
唖然とするしかないモニカに対し、ブリジットは屈辱に打ち震える。
「なぜわたしに相談してくれなかったのですか! まさか姫様が王国のため、このような男にかしずいていたなど……そうとは知らず、わたしは……」
モニカとジェラールの秘密を、彼女にも知られてしまったらしい。その傍らでアンナはウサギのお耳が垂れるまで頭をさげた。
「申し訳ございません。わたくしがブリジット様にご相談申しあげたために……」
メイドのアンナは前々から秘密を知っている。ジェラールの凌辱からモニカ王女を救うべく、騎士団長のブリジットを頼ったのだろう。
しかし先日のリゾートでは、ふたりともジェラールとそれなりに打ち解けたはず。
「さては、あなたが仕組んだのね?」
「人聞きが悪いなあ。これでも、おれは譲歩してやったんだけど」
ジェラールはアンナを睨みつけ、淡々と吐き捨てた。
「いけないメイドだよ。あの夜のぼくたちを、この子はこっそり覗いてたのさ」
「……っ!」
決して強くはないアンナの瞳に涙が浮かぶ。
ふつふつと怒りが込みあげてきた。ジェラールはアンナの弱みにつけ込んで、ブリジットまで誘い出したに違いない。この衣装もおそらく彼女の手製だった。
「覗き見だなんて、そんなこと、アンナがするわけないでしょ? 多分……そうよ、あたしを呼びに来たとかで偶然……」
「かもしれないね。でも、おしおきは必要だ」
おしおきという言葉の意味にぞっとして、モニカは口を噤む。
ブリジットはアンナを庇い、彼に人差し指を突きつけた。
「き、貴様の戯言にはわたしが付き合ってやると、言ったはずだ。姫様を解放しろ!」
しかしジェラールは眉ひとつ動かさない。
「きみにモニカの代わりが務まるのなら、ね。そのために今夜はこうして全員を集めたんだ。きみやアンナがモニカよりもおれを満足させられるか、興味がある」
「くっ……どこまでも悪ふざけを」
ブリジットもまたジェラールの要望に応じる形で、この場に現れたようだった。
「なんなら隙を見て、おれを締めあげるかい? 騎士団長殿」
ジェラールが壁の的を見据え、ダーツを投げつける。
動きそのものは無造作に見えたが、ダーツは的の中心に寸分の狂いなく命中した。バレーを得意とするように体力もあるはずで、ブリジットでも勝つのは難しい。
「そう怖がることはないさ。せっかくのパーティーなんだ、楽しもうじゃないか」
ジェラールは我が物顔でソファに腰を降ろし、寛ぎ始めた。
アンナが前に出て、三角形のグラスに真っ赤なワインを注ぎ込む。
「ど、どうぞ……お召しあがりくださいませ」
「いいね。きみはおれ好みのウサギだ」
アンナもモニカと同じバニーガールの恰好で、胸元の露出に戸惑っていた。大胆なスタイルのせいで、控えめな仕草であっても濃厚な色気を醸し出す。
ジェラールったら、またアンナに……。
ボディスーツの後ろは窮屈そうにお尻に食い込んでいた。毛玉のような尻尾が彼女の腰つきを追いかけ、ジェラールはごくりと咽を鳴らす。
「おれの相手をするんじゃなかったのかな? ブリジット」
「そ、それは……」
指名され、ブリジットは困惑の色を浮かべた。さすがにバニーガールのスタイルでは強気を保っていられないようで、鎖骨の下から片手を剥がそうとしない。
やっぱり綺麗よね、ブリジットは。ジェラールだって気に入るわけだわ。
そうして佇むだけでも、肉感的なプロポーションは間違いなくジェラールの獣欲を触発していた。曲線のついたラインがボディスーツをくぐり、想像を掻き立てる。むっちりとした太腿も網タイツを引き伸ばし、危ういほどの色香を漂わせた。
しかしジェラールはブリジットをよそに、モニカを呼ぶ。
「しょうがないな。モニカ、手本を見せてやれ」
「あたしが? で、でも……」
「ブリジットの前じゃ恥ずかしいかい? いいから、おいで」
おずおずとモニカはブリジットの傍を横切り、ソファへと歩み寄った。ジェラールに腕を引かれ、その膝の上に座らされる。
「ち、ちょっと?」
「きみの席はここだろ。アンナもこっちで座るといい」
「は、はい。それでは……」
彼の右手のほうにはアンナが招かれた。ソファにはもたれず、ちょこんとお尻だけ乗せて、モニカに『本当によろしいのでしょうか』と目配せしてくる。
「どっちのウサギさんも可愛くて、目移りするなあ」
それでもジェラールの手が彼女に伸びることはなかった。あくまでモニカにだけ腕をまわし、脇腹や太腿を撫でさする。
「くすぐったいから、や、やめてってば」
「そんなこと言って、本当は嬉しいくせに。もっとおれに甘えてごらん」
ブリジットにこそ見せつけるように、ジェラールはモニカ王女を抱き寄せて、耳たぶを噛んだ。胸にも手を伸ばし、バニースーツに指を引っ掛ける。
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