第21話

「へあぁあっ? そ、そこは……!」

 間違ってもひとに触られてはならない部分が、密かに綻んだ。

アンナの指が粘っこい蜜をかきだしながら、徐々にモニカを暴いていく。

「せ、僭越にございます。モニカ様、どうかお許しを……」

「違うったら! 許して欲しいのは、こっちで……あっ? うあぅ?」

 最初は違和感でしかなかったものが、はっきりとしてきた。アンナに指を繰られるだけで、俄かに痺れが生じ、脚を閉じきることもできない。

 モニカは人差し指を噛んで、責めに耐える。

「どうして……はあっ、身体が?」

「アンナに教えてもらうといい。女としての感じ方を、さ」

 全身が過熱し、玉の汗まで流れ出した。柔肌はますます感度を高め、ジェラールの視線にさえも刺激として感じつつある。

 アンナは慣れた手つきでモニカの秘密を拡げ、かき混ぜた。同性だからこそ、モニカの耐えられないところを知り尽くしているようで、痺れは一向に止まない。

「モニカ様、その……気持ちはよろしいでしょうか?」

「何言ってるの? アンナ、こんなの……へあっ、き、気持ちいいわけぇ……!」

 認めたくはないが、これが快感なのかもしれなかった。少しでも刺激が遠のくと、無性なほどにもどかしさが募って、しきりに喉が渇く。

 そうして焦らされたうえで、刺激をもたらされると、無意識のうちに声が色めいた。

「あはぁ? だ、だめよ……そんなふうに、はあっ、しちゃあ」

「随分とよさそうじゃないか、モニカ。やっぱりきみはマゾ王女なんだね」

 罵られたとわかっていても、反論の余裕がない。乙女の部分をメイドに弄ばれ、それこそマゾのように悶えるばかり。

 前方にジェラールがまわり込んできて、モニカの顎を掬い取った。

「正直になってごらん? きみは今、気持ちいいんだよ」

「ち、ちが……あたしは、んぅぐ?」

 またも唇を塞がれ、今度は舌まで絡め取られる。

 呼吸を妨げるようなキスに溺れながら、モニカはアンナの責めにも喘いだ。身体の二ヵ所が淫猥な水音を奏で、マゾヒスティックなムードを盛りあげる。

「いい子だ。そのまま……」

 キスのせいで、彼の瞳を覗き込むとともに、自分の瞳を覗き込まれた。乱暴なおこないとは裏腹に、そのまなざしに深い愛情を感じ、身も心も蕩かされそうになる。

 ジェラール、あなたは一体……?

 ついには頭の中が真っ白に染まってしまった。

「へあっむ、も、もぉらめ……らめぇええええっ!」

 前方のキスに悶えつつ、モニカは後ろから恍惚感に打ちあげられる。

 気持ちいい――いつしか身体は快感に震えていた。激しい絶頂の波が引くと、倦怠感に襲われ、くたっと虚脱する。

「はぁ、はあ……んっ? あ、はあ……」

 涎にはジェラールのものも混じっていた。しかし、それを嫌悪するだけの気力は残っておらず、嚥下もできない。身体じゅうが汗だくで、頭は熱っぽくなっていた。

「可愛かったぞ、モニカ。約束通り、アンナは解放してあげよう」

 ジェラールはもう一度だけキスをして、モニカから離れる。

 ショーツはびっしょりと濡れ、アンナの手もぬめ光っていた。アンナはそれを拭おうとせず、さめざめと泣き出す。

「どうしてこんなことに……ひぐっ、申し訳ございません、モニカ様……!」

「それじゃあ、おれは退散するよ。またね、モニカ」

 しかしジェラールは慰めの言葉も掛けず、すたすたと部屋を出ていった。汗みどろのモニカと、泣きじゃくるアンナだけが残される。

 ごめんなさい……あたしのせいで、本当にごめんなさい、アンナ……。

 モニカの瞳から一筋の涙が零れた。

 国王代理となってから、泣かないと誓ったはずなのに。


                  ☆


 翌朝になっても身体じゅうに倦怠感が残っていた。

 昨夜は強制じみた快楽に疲れ果て、そのまま眠ってしまったらしい。いつの間にやらネグリジェを着ているのは、メイドが替えてくれたから、だろうか。

 アンナは壁際で頭を垂れ、佇んでいる。

「お……おはようございます、モニカ様……」

「……ええ」

 いつものように『おはよう』などと返せなかった。命令したのはジェラールとはいえ、モニカの初心な身体を弄んだのは彼女。

 どうして……この子、あんなふうにやるって知ってたの?

 あたしが知らないだけ?

 あの『快感』を思い出すだけで、また疼きそうになった。一国の王女にあってはならない、いやらしい遊びを、この身体は憶えてしまったのかもしれない。

「すぐに朝食をお持ちしますので」

 アンナは他人行儀に礼ばかり尽くし、退室していった。

 昨夜の凌辱はモニカを辱めただけではない。アンナとの友情をもないがしろにされ、ずたずたにされてしまった。彼女はジェラールに脅され、恐怖したに違いない。

 そしてモニカを淫猥な方法でいたぶり、姫とメイドの朗らかな関係は破綻した。モニカにしても彼女との適度な距離感を掴みきれず、顔を会わせるのが苦しい。

 ジェラールのせいよ! 何もかも!

 悔しさのあまり、モニカは枕をベッドに叩きつけた。

 今後もジェラールの悪ふざけはエスカレートするだろう。いずれはアンナのみならず、妹やブリジットまで巻き込まれるかもしれない。

 そんな憤怒や悔恨に駆られていると、窓のほうから妙な音がした。

「……?」

最初は風かと思ったが、ノックのつもりで誰かが窓を叩いているらしい。

 モニカは顔をあげ、その人物に目を点にした。

「あなたはセリアス?」

「すまない、王女。少し開けてくれ」

 窓を開けても、セリアスが部屋に立ち入ることはなかった。身を隠しながら、カーテン越しに情報だけ教えてくれる。

「やはりレオン王は生きているようだぞ。王家の血は策謀に欠かせんらしい」

「なんですって?」

 モニカは片手で口を覆いながらも、セリアスの言葉に耳を傾けた。

「言い換えれば、お前やセニア姫も狙われかねん、ということだ。俺がいない時は絶対にひとりになるなよ。妹にも言い聞かせておけ」

「あ……ちょっと? 待って!」

 伝えるだけ伝え、彼はベランダから軽やかに降りていく。

 モニカのもとには驚愕の事実が残された。

「お爺様が生きて……?」

 レオン王は健在だが、どこかに幽閉されている。それは王家の血に何らかの利用価値があるためで、セリアスは軍神ソールの伝説にこそ秘密があると睨んでいた。

 先日の会議でも、ジェラールは騎士伝説に興味を示した。ところが、貴族たちは申しあわせていたかのようにこれを否定し、一笑に付している。

「軍神ソールは眠ってるんだわ。王国のどこかで」

 戦慄とともにモニカは我が身をかき抱いた。

 大地を切り裂くほどの圧倒的かつ驚異的な力が、このソール王国に隠されている。それを『軍事力』とすれば、不埒な連中が欲するのも道理だった。王国騎士団の半ば解体じみた再編成にしても、軍神ソールを運用するための下拵えかもしれない。

 じゃあ、ジェラールも軍神を狙って……?

 軍神と古代王の復活に必要とされているのは、王家の血。おそらくそのために祖父は拉致され、孫娘のモニカとセニアにも何かしらの利用価値が認められていた。

 セリアスはその企みを食い止めるべく動いているのだろうか。少なくとも、彼はモニカに貴重な情報を提供してくれた。

「……守らなくっちゃ」

 モニカは意を決し、朝食のあとはジェラールのもとへ。

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