第20話

「メイドの悪戯は雇い主の責任だ。だから、おれはきみにおしおきしなくてはならないんだよ。わかるかい? モニカ」

 どうあってもジェラールは『おしおき』と称し、モニカへの責めをエスカレートさせるつもりでいた。ここで歯向かえば、アンナまで巻き込むことになる。

「……アンナだけは解放してあげて。あたしの命令でやったことなんだから」

「それは構わないさ。罰はきみが受けるんだ」

 ジェラールはあっさりとアンナの拘束を解いた。

「ただし……アンナ、きみがおれに代わってモニカにおしおきするんだよ。いいね」

「え? わ、わたくしが……?」

 モニカもアンナもぎょっとして、ジェラールの涼しげな表情を見上げる。

「きみができないなら、おれがやる。さっきの続きをね」

 その脅しひとつでモニカの心は竦んだ。ショーツの中にまで手が入ってきたのだから、次は何をされるか、乙女には想像することさえ憚られる。

「きみ次第だよ。アンナ」

「わたくしの……で、ですけど、そんなこと……」

 一転してアンナは板挟みの状況に立たされた。ジェラールの命令に従わなければ、敬愛する王女を辱められる。かといって、その手で王女をいたぶれるはずもない。

 しかしモニカには選択の余地もなかった。ジェラールより彼女に責められるほうがましなのは当然のこと、自分のために大切な親友を苦しめたくない。

「ジェラールの言う通りにしてちょうだい、アンナ。あたしのことは心配しないで」

「モニカ様っ? い、いけません! もっとご自身を大切に……」

 戸惑うアンナの前で、ジェラールはモニカのショーツに手を掛けようとした。

「だったら、そこで見てなよ。モニカがおれのものになる決定的瞬間をさ」

 主君の危機を目の当たりにして、アンナは蒼白になる。

「おぉ、お待ちください! し……承知致しました。わたくしがジェラール様の代わりを務めますので、どうか、モニカ様へのお手出しは」

「聞き分けのいい子だ。こっちにおいで」

 モニカはベッドへと転がされ、その後ろをアンナが取る形となった。四つん這いとなったモニカのお尻を見下ろし、ジェラールがアンナに囁きかける。

「犬みたいだろ? きみが躾けてやれ。ぶってやるんだ」

「わ、わたくしはモニカ様のメイドでございます! そのようなことは決して」

「あれ? じゃあ、おれがぶっていいのかな」

 その一言にアンナはぎくりとした。

モニカは腹を括り、彼女のためにも、恐る恐るお尻を差し出す。

「いいから、やって? は、早く……」

「モニカもお待ちかねだよ。さあ」

 モニカに促され、ジェラールに急かされて、ようやくアンナは手を振りあげた。けれども王女のお尻をぶつにぶてず、弱々しく触れるだけ。

 早くもジェラールが業を煮やす。

「もっと強くしないと。これくらいに、ね!」

 アンナのものより大きな手が、しなりも利かせてモニカのお尻をぶった。

「ひぎぃっ?」

 ばちんと強烈な音を立て、痛みが走る。反射的にモニカはしゃくりあげ、両腕を伸びきらせた。それを二発、三発と続けられるたび、視界が真っ白に瞬く。

「あうっ! や、やめ……あひぃ!」

「おやめくださいっ! やります、わたくしがやりますから!」

 四発目を振るおうとしたジェラールの腕を、アンナがしがみついて止めた。男性の乱暴な振る舞いに怯え、涙を浮かべながらも、モニカだけは健気に守ろうとする。

「次はないよ。わかったね」

「……はい」

 今ほど悔しい思いはしたことがなかった。モニカはシーツを掴んで、屈辱に震える。

 よくもアンナを……! こんな子に怖い思いさせて!

 そんなモニカの真後ろで、アンナは今度こそ右手を振りあげた。躊躇のせいか、一拍の間を置いてから、その手をついに振りおろす。

 ジェラールの平手打ちにも負けないほど、ばちんと大きな音が弾けた。

「へああぁあッ?」

 痛みが引きつつあったお尻をぶたれ、モニカは腰で跳ねる。ジェラールにぶたれた分でお尻が一時的に引き攣り、敏感になっていたらしい。

「もう一回だよ。ほら」

「申し訳ございません、モニカ様……!」

 さらに一発、もう一発と叩きつけられ、意識が飛びそうになった。

お尻には赤い手形がくっきりと浮かびあがる。さしもの王女も息を乱し、四つん這いの姿勢さえ保てずに突っ伏した。

「はあっ! んあ、あはぁ……も、もうやめ、てえ……」

 感度が高まりすぎたのか、ショーツが食い込むようにも感じられる。唇の中には涎がなみなみと溜まり、余計に息が苦しくなった。

王女のお尻を打ちのめしてしまったことに耐えきれず、アンナは嗚咽を漏らす。

「わたくしはなんてことを……ひっく、モニカ様、本当にもうひわけ……!」

 にもかかわらず、ジェラールはまだ満足しなかった。今にも泣き崩れそうなアンナに何やら耳打ちして、彼女を戦慄させる。

「なっ? そ、そのようなこと、できません!」

「それで終わりにしてあげるよ。できないなら、できるまでぶたせる」

 彼はメイドに有無を言わせず、冷酷な脅迫を続けた。

「そういえば、きみはモニカから聞いてるのかい? 彼女はおれの奴隷となったのさ」

「ど……奴隷、ですか?」

「そうとも。ソール王国の独立を尊重しろ、という条件でね」

 誰にも打ち明けていない秘密を、とうとう暴露される。アンナと目を合わせず、モニカはシーツを握り締めるほかなかった。

 アンナを巻き込むつもりなんて、なかったのに……。

 自分だけが犠牲になるならまだしも、親友まで毒牙に掛けられつつある。モニカを追い込むためにも、ジェラールはメイドのアンナにさえ容赦しないだろう。

「よく聞くんだ、アンナ。……………」

 ジェラールに何かを吹き込まれ、アンナは驚きの色を浮かべた。そして再びモニカの後ろを取り、ごくりと固唾を飲む。

「……アンナ?」

「お許しください、モニカ様。わたくしには……こうするしかないんです」

 思わぬ奇襲を受け、モニカは突っ伏したままでも背中をのけぞらせた。ショーツの中に彼女の手が入ってきたらしいことに動揺し、声を震わせる。

「ちちっ、ちょっと? あなた、何をして!」

「おれの命令に従っただけのことさ。さあ……やるんだ、アンナ」

 頬を染めつつ、アンナは手首を返した。その指先――おそらく中指と薬指がショーツの裏側で侵入を深め、モニカの乙女をこじ開けてしまう。

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