限界突破50回目
僕はついに節目となる限界突破50回目を果たした。
1000回が最終目標だとするとまだ5%なのでぜんぜん節目じゃないけど、50回っていうのがある程度の区切りとしてちょうどよかったので区切って節目とした。
聞くところによると、高橋はすでに限界突破が200回を超えたとか。どんな化け物だよ。
僕はちょっとずつ細マッチョになっていくのに対し、高橋は相変わらずスマートなままだ。身長差もあるかもしれないけど、おそらくは限界突破の成長の方向性が原因だと思う。
やはり僕は筋力が一番上がっていく。本当にこの攻撃力の上がり方はどうなのかと思う。戦闘では有利に働くので嫌だってことはないけど、どんだけ筋力に偏ってステータスが上がっていくんだって話。
僕が意図してそうしているわけじゃないんだけどなぁ。
「どうしたんだ、そんなに大きなため息ついて?」
僕の悩みの種でもある高橋が気さくに声をかけてくる。ここは学校だよ? 僕に話しかけて大丈夫?
「今度は変な顔になってるな。どうした、情緒不安定か?」
「……なんでもないよ」
「そっか。変な奴だな」
変な奴は高橋のほうじゃないか? 学校では僕と高橋の接点は本来はほとんどない。フォルトゥナが編入(?)してきてからは、フォルトゥナへの興味という形で高橋が僕に話しかけてきたことになっている。なんたってフォルトゥナは僕の親戚のいとこだからね。
でも、ある程度落ち着いてくるとフォルトゥナもチヤホヤされなくなっていた。珍しいのも最初の内だけ。今じゃ、一部の女子とグループを組んで仲良くしている。人見知りを発揮しているから、そのグループ以外とじゃまだギクシャクしてるけど。
高橋はついでのように僕に声をかけ続けていたので、クラスの中でも僕と高橋が話をしていること自体はもう目立たなくなっている。とはいえ、属性は陰キャと陽キャで本来は住む世界が違う。あまり高橋が僕と話をしていると、元々の高橋のグループがちょっと嫌そうにしているように見えた。もちろん、僕の目立ちたくないオーラから来る被害妄想的な視点も加味してだけど。
「高橋はいいよなぁ」
「ん? なんだ、いきなり」
「いや……高橋はいいよなぁ」
僕は同じ言葉を繰り返した。だって、いいんだもん、高橋。
「前も言ったと思うけど、俺はおまえのほうがうらやましい」
「……フォルトゥナだろ?」
「それももちろんある」
全力の肯定だ。やはり高橋はフォルトゥナが女神様だろうとあまり関係ないんだな。僕だってフォルトゥナが気にならないわけじゃない。どちらかと言えば、その……す、好きなほうだ。でも、やはり立ち位置が違いすぎて腰が引けてしまう。仲良くするのはいい。むしろ積極的にそうしたい。でも、その先は…………やっぱり考えられない。
「でもな」
僕が思考の迷路に入りかけていたところ、高橋が真剣な目をして僕を見つめていた。……そんなに真剣な眼差しで見ないでくれ! 惚れてしまったらどうするつもりだ!
「俺は、おまえそのものもいいと思っている」
言葉にインパクトがある。「おまえそのものもいい」とかって結構なパワーワードだぞ高橋……。前にその気はないって言っていなかったか?
思わず僕は自分の体を自分で抱き締めてガードしてしまった。高橋が首をかしげる。僕も首をかしげる。
「僕の、なにがいいって……?」
恐る恐る尋ねる。もちろん、僕が懸念したような、男同士がうんぬんという意味合いはまったくないのだろう。でも、なんとなく恐る恐るになる。もし間違って、ね、そんなことだったら、ね、あれじゃん。
「だから、前にも言ったがおまえの体だよ」
やーめーろー!
もちろんちがう意味なのはわかっている。わかっているが噛み合わせが悪い。おまえそのものがいい、おまえの体がいいとか、嫌な想像が膨らんでしまうじゃないか!
高橋がイケメンじゃなきゃ僕も額面通りの受け取り方なんかしない。実際の意味のほうをちゃんと受け止める。でも、高橋が言うと、もしかしての可能性がチラつく。女子じゃなくても、イケメンにいい感じの言葉を言われるっていうのは心に良くない。実に良くない。
「その体つき、しっかりと鍛えている証拠だ。おまえの努力がうかがえる。すばらしいな」
「……あ、ありがとう」
ストレートな褒め言葉に僕はドギマギする。あまり体、体と言わないでほしい。男同士でも恥ずかしくなってくる。高橋は僕の体をじっくりと観察している。筋肉の付き方やそのバランスを。その目に変な意味合いは微塵もない。
ドッペルゲンガーとの戦いで高橋もどんどんと戦士の体になっていく。それはもちろん僕も同じだ。元々運動をしている高橋のほうがバランスはいい。僕は筋力ばかり増える影響がこの体にも出ているので、とにかくムキムキになってきている。陰キャなのにムキムキというのは実にバランスが悪いのだが、高橋はそこを褒めてくれる。
女子から見たら僕の体つきはちょっとキモいんじゃないかと思うんだけどね、さすがに。
「あまり……ジロジロ見ないでくれ」
やっぱり僕は自分の体を自分で隠すようにガードした。恥ずかしがり屋の女子か。
「やっぱりおまえ格闘技もやれよ」
「……お断りします」
ヤダよ! これ以上ムキムキになりたくないってば!
僕は「即答しなくても……」と衝撃を受ける高橋に対してヘラヘラと軽薄な笑いを返し、この話題を華麗にスルーすることに決め込んだ。
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