限界突破2回目(4)
よしっ、硬直時間が解けたぞ!
僕は下段に構えていた軽く感じる剣を正眼に構え直す。さすがにリーダーリョーくんにもすっかり態勢を整えられてしまった。両腕をだらりと垂らして不気味に待ち構えられている。せっかく転倒させてチャンスだったのが不意になり、僕は悔しさに唸る。
だが、もうこうなったら仕方ない。最初の1対3の不利な状況に比べれば今のほうが百倍マシだ。限界突破もきっと僕のほうが1回多いはずだ。もともと同じくらいの力量であれば、僕のほうがわずかに有利。そう信じたい。
お互いににじり寄る。立ち止まれば立ち止まる。少し動けば少し動く。鏡写しのように同じような動きをされるとあまり気分が良くない。相手が同じ顔をしているのが原因なのは言わずもがなだ。
埒が明かないので結局僕から攻撃を仕掛けた。
意表をつく砂蹴りだ。頑丈な靴をフィールドに突き立て、ある程度の土砂の塊をリーダーリョーくんに浴びせかけた。予期していなかったのか、リーダーリョーくんはその石つぶてをまともに食らう。
僕は振り上げた足を着地させると同時に一気に蹴り出す。前方への加速だ。こればっかりだが、これしかできない。バカみたいに突進を繰り返す僕は、だけどこの攻撃が自分のスタイルに合っているんじゃないかと思い始めていた。
フォルトゥナのバフも限界突破のステータスアップもおそらくだけど筋力がただただ増えている。僕が限界突破を繰り返したら筋骨隆々の脳筋にでもなるのだろうか?
ただそれは悲観することでもない。筋力の増加は攻撃の威力アップに繋がるし、足腰が強くなって踏ん張っての耐久や蹴り足が強くなって移動速度の向上にも繋がる。筋肉を笑うものは筋肉に泣くだ。
ゲームの初心者ならゴッリゴリに攻撃力だけを高めてなるべく少ない攻撃回数で敵を倒すのは理に適っている。耐久も少ない内は少しの攻撃ですぐにやられてしまう。やられる前にやれ。これが基本だ。
またはガッチガチに防御を固めるという手もある。ダメージを受けなければ少ない耐久でも早々やられることはないからだ。
ゲームならいずれかのステータス一点突破のほうが序盤はうまく進められることが多い。僕がいるここはゲーム世界に近い。なら、僕の考えはあながち間違っていないはずだ。
そして、僕の考えは正しかった。
目潰しに面食らうリーダーリョーくんはその敏捷性をうまく発揮できず、むやみやたらと豪腕をぶんぶんとただ振り回した。勢い余ってたたらを踏み、よろけたところに僕の攻撃が命中する。
クリーンヒットだ。
リーダーリョーくんの腕が虚しく僕の前を通り過ぎたところを真上から一閃。リーダーリョーくんの右腕が肩口からバサリと切り落とされる。声にならない悲鳴を上げ、リーダーリョーくんは失った腕の根本を掴んで大きく持ち上げ苦悶する。
「胴体がガラ空きだ!」
僕は振り下ろした剣が落ち切る前に、腰を左に捻った。剣の軌道が変わる。右足を大きく前に踏み込んだ。逆側に腰を撚ると、かなり低い姿勢から剣を右上に強く跳ね上げた。居合斬りのような剣閃がしっかりとリーダーリョーくんの胴体を捉える。
リーダーリョーくんは残っていた左手で拳を作ると、視えているのかどうかわからない僕の頭目掛けてその拳を叩き落とそうとした。
……その拳が僕に届くことはなかった。
僕は剣を振り抜いた。
「おつかれさま」
すべてを見届けたフォルトゥナが僕に近寄ってきて労いの言葉をかけてくれた。
「……疲れたよ、本当に」
リーダーリョーくんの体が崩れ落ちたのを確認し、僕は深く、大きく、安堵のため息をつく。どっかと腰を落とし、その勢いで背中からバタンと地面に倒れ込んだ。
見上げた空は曖昧な雲に覆われている。
照りつけていた太陽はどこかへとその姿を隠していた。もしあのままさんさんとした陽光に焼かれていたら僕はもっと早くスタミナ切れになっていたかもしれない。戦闘の途中で限界突破をして力を補充できたのも大きいけど、いつのまにか僕に遠慮して隠れてくれた太陽に、気を遣ってくれてありがとうね、って感謝を伝えたい気分だ。
——って、なんかセンチメンタルだな、僕。
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