限界突破3回目

 僕の体にリーダーリョーくんが吸収され、僕は限界突破3回目となった。


 ……そう、3回目だ。


 この舞台設定では限界突破に際しては1体につき1回分にしかならない。逆側合成をすると終わるパターンだ。仮に相手が99体のドッペルゲンガーを同士討ちして倒していた場合、本来は限界突破100回分の価値があるのだが、実際に僕が限界突破をしても1回分にしかならない。つまり、強い相手を倒してもほぼメリットがない。この仕様だといかに早く、そして数多く倒して限界突破をするかが肝心だ。


 こうなってくると、僕のヘイトが一番高いというのはデメリットではなくメリットだ。向こうから優先して近寄ってきてくれるのだから、僕はそれらを迎え撃ち、少しずつ限界突破を繰り返すことができる。僕を狙うことが優先される以上は同士討ちも起きづらいだろう。僕がちゃんと各個撃破し続ければ、いたずらに強いドッペルゲンガーが生まれることも少ないはずだ。


 けど、ひとつ気がかりはレギュレーションの存在だ。フォルトゥナの話からするとレギュレーションは初心者狩りの防止が主な効果だ。またはナビゲーターによる強化を抑制する効果か。僕の場合だと、フォルトゥナによるステータスバフがあまり強力な効果を発揮していない。これがレギュレーションによる制約なのだろう。


 なんだかんだ、レギュレーションが存在することでRPGのお約束に従えている。強すぎる味方や強すぎる敵は序盤にはあまり出さない。そうしてゲームに慣れるまでプレイヤーは成長に集中できる。


 最初はザコ敵と戦い、買える武器や覚える魔法も低レベル。主人公側が強くなるにつれて敵も強くなるが、手に入る装備や覚える魔法も強力な物に切り替わっていく。そうしてバランスが取れて、最後まで過度なストレスに晒されることなくプレイが続けられるって寸法だ。


 このバランス感覚がいいゲームは当然ながら評判も良いものとなる。多くのゲーマーを魅了するのはこういった部分に手抜きを行わない真摯さが大切なんだ。


 しかも、良バランスというのは逆を言えば常にそこそこ手応えのある状態が続くということだ。つまり、僕はこの世界に留まる限り常にストレスに晒されることになると言い換えることができる。限界突破を重ねて超有利な展開に進めようと思ったところで、今度は僕が初心者狩りの条件に引っかかる。フォルトゥナのバフも加味すれば、かなりのアドバンテージを持つからだ。


 僕にしても、ザコ敵狩りは最初だけにしなさいというわけだ。いきなり手応え抜群だったけど。


「ねぇ、フォルトゥナ。今回の限界突破で僕のステータスはどれくらい上がったのかな?」

「強くなった実感はある?」

「…………ない」


 限界突破ってもっと大幅なスペックアップに繋がるものなはずだ。ところが僕はもう3回目ともなるのにそんなに変わった気がしない。いや、たしかに筋力がまた上がっているんじゃないかという気はしている。たぶん1は増えている。でも、あれだけ苦戦した1対3での戦いや、強化されたリーダーリョーくんとの戦いを経験しても限界突破はたったの1回だし、ステータスアップの実感もない。無駄骨感は否めない。


「そうねぇ、リョーくんの今回の限界突破の結果を数値化するなら、筋力がプラス1で火属性耐性もプラス1ってところね」

「また微妙なアップ幅だな……」

「いいじゃない。ちゃんと強くなっていっているんだし。もっと長い目で捉えたほうが気がラクよ」

「そう言われちゃえばそうなんだけど、うーん…………」


 僕は唸るしかない。この調子だとどんどんと苦戦が続く未来しか視えない。

 限界突破を重ねてステータスをたった1増やした結果、相手はどんどんと強くなっていく。限界突破したドッペルゲンガーと戦うというのもあるし、ドッペルゲンガーすべてが僕に合わせて勝手にパワーアップしていくだろうというのもある。


 これは重要なポイントだ。


 僕はいったいなにに参加させられているのか。ここで行われているのはトーナメント戦なのか? それとも総当たり戦——バトルロイヤルなのか?


 限界突破の仕組み的にトーナメント戦を予感していたが、必ずしもそうではなさそうだ。相手のレベルがこちらに応じて高くなっていくバトルロイヤル方式なんて正直最悪だ。倒しても倒してもラクにならず、いつも自分とほぼ同じ力量の相手が相手となる。


 ……これはかなり厳しい。


 1000体倒し切る頃には僕はきっと伝説の勇者にでもなってしまうんじゃないか? そのくらい手に入るであろう経験値が違う。総戦闘回数が違うのだからそれも当然だ。


 ドッペルゲンガーの数が約1000体だったとして、トーナメント式なら10回程度の戦闘で済むが、バトルロイヤル式だったら999回も戦わないといけない。およそ100倍差だ。100倍…………自分で言ってて気が重くなるばかりだ。


「リョーくん、今日はまだ戦えそう?」

「……戦わないでいいんならもう休みたい」


 フォルトゥナに問われた僕は正直に答える。肉体的にってのもあるが、精神的に疲れた。自分の分身を倒し続けるというのは言葉で言う以上に心に来る。それに、普段の僕は超の付くインドアだ。


「普段使わない筋肉たちがいっせいに悲鳴をあげているよ。今でこんなじゃ、明日とか明後日もヤバそう」

「さすがにそうだよね? じゃあ、ここまでにしましょう」


 やめたければやめられるのか? だいぶ自由な環境じゃないか。


「えっ? フォルトゥナが終わらせようと思えば終わらせられるの?」

「あたりまえじゃない。この舞台はあくまで現実世界に閉じた影響範囲を重ねているだけなんだから」

「あのね、一応言っておくけどさ——」


 ニコニコとしているフォルトゥナに、僕は念のため釘を刺すことにした。こめかみに怒りマークを浮かべながら。


「初耳だからねっ!? それに、フォルトゥナのあたりまえは僕にとってはあたりまえじゃないんだからね? よーく覚えておいてよ!」

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