限界突破32回目
片手剣がボロリと落ちる。
2体の覚醒リョーくんを連続で斬り伏せ、僕は最後の余韻に浸る。
「………………ふぅーー」
深く大きく息を吐く。
「つ、つかれたぁ……」
「本当におつかれさまだよ!」
フラッと倒れそうになった僕にフワリと近寄ったフォルトゥナが僕を抱き締めた。いろいろとやわらかいものに包まれて安心したのか、僕は体に疲労が一気に溢れ出して軽くめまいを起こした。
思わずフォルトゥナの肩に頭を預けてしまう。
「リョーくん……大変だったね」
「……そう、だね」
もう動けない。動きたくない。
今はまだマシだけど、しばらく筋肉痛で動けなくなりそうだ。こんなに体を動かしたことなんて、僕の生涯で一度もないぞ。しかし、本当によく動いた。
よくがんばったよ……僕。よく耐えた、僕の体。自画自賛する。そりゃ、自画自賛もするよ。
だが、ここで最後にあとひと踏ん張りをしないと。僕はもう二度と成果をかっさらわれるわけにはいかないんだ。たとえ、この場に僕以外にフォルトゥナしかいないとわかっていても、だ。
「ねぇ、フォルトゥナ」
「なに、リョーくん?」
「限界突破……しておきたい」
「少しゆっくりしてもいいのに」
フォルトゥナは僕を抱き締めたまま耳元で甘くささやく。心地いい響きに僕もそれでいいんじゃないかと思わず思いそうになる。
……でも、ダメだ。
僕はブンブンと首を振る。フォルトゥナの肩に頭が乗ったままだから、まるで聞き分けのなくママに甘える3歳児みたいだ。
「僕は限界突破をしたい。せっかくちゃんと自分でドッペルゲンガーを倒したんだから」
最初は巻き込まれただけだが、今じゃこんなに限界突破に前向きだ。1回1回は強くなる実感はあまりないけど、積み重なった変化は感じる。強くなっているし、体力も増えてきている。戦闘もそつなくこなせるようになってきた。
その成果であり報酬でもある限界突破を、第三者――僕と同じ顔の別人に奪われるなんて僕が嫌だ。戦闘中にも素早く吸収するようにしているのだ。戦闘後だからってあと回しにして、もしなにかあったりでもしたら後悔じゃ済まない。
「ふふっ」
フォルトゥナが笑ったので肩に乗せていた僕の頭もいっしょに揺れる。
「リョーくんももう一人前の男の子だね」
……男の子。
褒められたはずだが、なんだろう、あまりうれしくない…………?
「そんなに焦らなくてもリョーくんのがんばりは逃げないよ。大丈夫、私がちゃんと見てるから、ね?」
「あ、ありがとう……」
フォルトゥナは僕の肩をガッシと掴んで自分の肩から引き剥がし、僕を正面に捉えるとニッコリと笑顔を浮かべた。掴んでいた手を離すと、両手が同時に僕の肩をポンポンと軽く叩いた。励ましてくれたのだろう。
やっぱり、フォルトゥナの笑顔はキレイだなぁ。それに、なんだか落ち着いてくる。疲れも吹っ飛んだような気がする………………これは気のせいだった。
「それじゃあ、ちゃっちゃとやっちゃおう!」
フォルトゥナがいつの間にか取り出した車輪のようなものを両手の間に浮かべている。そこに力が込められていくにつれ、2体の覚醒リョーくんの死体が光に包まれ、やがてその体が光の粒子へと変換されていく。
僕はそれぞれの光の粒子を順番に取り込むと、限界突破を2回上積みすることに成功する。
雷撃リョーくんを限界突破したときは頭の冴えを感じたが、今の2体はいつもどおりの充足感だ。これは、またもや筋力が上昇したな。どうあがいても脳筋を目指せということか。
かろうじてまだ頭の冴えは残っているが、疲れた体で気持ちよく寝て起きたときにはすっかりなかったことになっていそうでちょっと怖い。
僕のRPG的直感を信じるのであれば、さっきので絶対に知力が上がったはず。そうだよ、だって魔法使い系を倒して吸収したんだからね? きっとなんらかの魔法を使えるようにならなきゃおかしいってもんだ。
勢い込む僕は思わず両手をグッと力強く握っていた。
「そんなにうれしかった?」
フォルトゥナにそう尋ねられて、僕は自分がニヤニヤしながら握り拳を作っていたことに気付かされた。
…………猛烈に恥ずかしい。
「いや、そろそろ魔力が上がったんじゃないかって。さっきの雷撃リョーくんを吸収したから、さ」
恥ずかしかったので、素直に吐露する。
「それはあるかもね」
フォルトゥナの肯定に僕の顔がパッと輝いた……と思う。脈あり……!?
「数値的に言うなら、今回のリョーくんの成果はこんな感じね」
フォルトゥナが羅列した僕のステータスアップは――まぁ、予想の範囲に収まっていた。やはり、知力が1上がったようだ。あんなに強くなってきた覚醒リョーくんを10体倒して、10回限界突破して知力がプラス1……。
うれしくなくはないんだが………………やっぱりうれしくない!
どうして、筋力が限界突破の数以上に増えているというのに、知力はたったの1なんだよぉーーー!!
僕の魂からくる絶叫が僕の心の中で激しく木霊した。
木霊してくれちゃったもんだから、僕は自分の声で何度も何度も知力が1しか上がらなかったことを繰り返し聞かされ、それは耳を塞ごうとももはやなんの意味も持たなかった。
僕は自分で自分を口撃するという自爆行動に、その日の間ずっと――それは寝てから夢の中でまでおおいに悩まされることとなった。
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