限界突破1回目(4)

 フォルトゥナからのバフが切れてしまった僕は、1体目の野良リョーくんの攻撃をなんとかかわすことができた。だが、かなりギリギリだ。マントの端がほんの少しだけ切り裂かれてしまう。


 筋力上昇効果は敏捷にも影響しているので、わずかのステータスアップとはいえ、バフが切れてしまえば攻撃力だけじゃなくて素早さも落ちてしまう。限界突破をたった1回した程度じゃ、僕の能力はほとんど素の状態と変わらない。


 しかも、フォルトゥナのバフは一度効果が切れるとインターバルが必要らしい。今はちょっと離れたところで支援できるようになるまで待機している。


「こなくそっ!」


 攻撃モーションの大きい野良リョーくんの脇腹目掛け、僕は渾身の蹴りを放った。それだけで野良リョーくんは大きく仰け反ってよろける。すぐさま剣撃で追撃をしようとしたが、横からもう1体の野良リョーくんがぬるっと現れて僕に体当たりをする。


 ……ギリギリ堪えた。なんとか倒れないで済んだ。


 さっきからずっとこんな連携や妨害を受けている。なかなか1対1にならない。

 それもこれもリーダーリョーくんがこいつらをうまく操っているせいだ。野良リョーくんに攻撃をさせている間はリーダーリョーくんは襲いかかって来ない。タイミングでも測っているのだろうか。


 3体同時に戦うなんてやっぱり僕には荷が重い。早く1体だけでもいいからなんとか倒さないと。このままじゃジリ貧だ。


 僕はバックステップで一旦距離を取る。


 すかさずリーダーリョーくんが野良リョーくんをけしかけて間合いを詰めてくる。これじゃあ、微妙な距離感しか確保できない。でも、乱戦になればなるほどうまく動けなくなる。なんとか僕のリーチでの戦いに持ち込みたい。


「いったいバランス調整どうなってるんだよ……」


 僕は自分が今現在置かれているうんともすんともいかない状況をクソゲーに当てはめた。得てしてそういうゲームはバランス調整がおざなりだ。僕がまだ低ステータスの序盤に、いきなりこんな多数の敵に連携させて襲わせるとか……まさかのゲームオーバー狙いなのか?


 リセットしてやり直ししていいなら、もっと強いステータスでやり直したい! ……どだい無理な話だろうけど。


 無表情のドッペルゲンガー3体——しかも全部僕の顔だ——そんなのにずっとジーッと見られているとか、本当に頭がおかしくなりそうだ。せめて僕の顔じゃなければと思うが、それじゃドッペルゲンガーじゃないし、そうなると限界突破もできないし僕が戦っている理由がまったくなくなる。僕の顔と向き合わなきゃいけないのはこの世界ではマストだ。


 限界突破システム付きのゲームを遊んでいるだけじゃわからなかった事実だが、自分と同じ存在に遭遇するっていうのはマジでまったくうれしくないシチュエーションじゃないか。現実世界にドッペルゲンガーまたは瓜二つの分身のような人に出会ったらそんな気持ちになるのか? ……あ、でも双子は同じ顔じゃないか! もしかして双子はいつもこんな感じなのか? 生まれつきずっといっしょだから気にしないもんだろうか。


「リョーくん、もう少しでまたバフをかけられるようになるわ。あとちょっと我慢してね」


 僕が変な思考に落ちていこうとしていたところをフォルトゥナの声がすくい上げてくれた。また、戦闘中に意識をふっ飛ばすところだった。つい考え込んじゃうのは凄まじく悪い癖だな。


「どうせならその辺の大岩をあいつらの上に落としてくれないかな?」

「それはダメよ。そんなことしたら、たぶん野良リョーくんが全滅しちゃうから」

「それならそれでもいいような気がしてきたよ。僕、こいつらに勝てる未来が見えないんだけど……」


 僕はつい情けない声を出してしまう。女神様の不思議な力でこのピンチから脱却させてほしいと本気で思ってしまう。僕が戦わなきゃっていうのも理解はしているけど……理解したからって納得しているわけじゃない。だって、命を張ってるんだぞ?


「大丈夫……とは言い切れないわ」


 フォルトゥナは僕の不安を肯定する。やっぱりか!

 衝撃を受ける僕に対し、フォルトゥナは慌てたように付け加える。


「でも、私がちゃーんとリョーくんが死なないようにカバーするから。だから、ね、安心して?」

「その言い方だと、僕が死にそうになるのが前提みたいだけど……」


 チラとフォルトゥナを見れば、サムズアップをしながらパチリとウィンクをした。胡散臭すぎてあんまり安心できないんだけど……。


 僕はドッペルゲンガーに視線を戻す。ありがたいことに僕達の妙なやり取りを警戒してくれていたのか、僕達との距離は開きもせず縮みもせず、あいかわらず微妙な距離感のままだった。

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