限界突破2回目

「なっ……まさか、限界突破!!」


 僕は狼狽する。せっかく倒した野良リョーくんの1体がリーダーリョーくんに吸収されてしまった。こんな形で相手に限界突破を許してしまうなんて……。


「リョーくん、すぐにそいつに触れて!」


 フォルトゥナが彼女にしては信じられないくらいの大声で僕に警告を出す。そうだ、もう1体いる!


 僕は全力で駆け、首をふっ飛ばし胴体だけとなった野良リョーくんに取り付く。フォルトゥナはすぐに手続きを開始してくれた。野良リョーくんの体は光に包まれると細かい粒子になり、僕の腕を通して僕の中に吸収されていく。


 体の内側にまるで炎が灯ったような温かさを感じる。疲労感が吹っ飛んでいく。


 限界突破の恩恵が存分に感じられた。


「…………危なかった」

「えぇ、まさかこんなタイミングで相手が限界突破をするとは思わなかったわ」


 僕はフォルトゥナと顔を見合わせる。余裕のない表情だ。きっと僕も同じ表情をしていると思う。


「あんなに簡単に限界突破をしたけど、あいつらは同士討ちをしないのか?」

「そこまではわからないわ。攻撃対象の優先順位の問題かもしれないわね」


 僕が第一優先だからまずは僕を狙う。じゃあ、僕がいなかったら同士討ちをするのか? ……なんとなくそれは違うと思った。あくまでオリジナル度の高い僕を狙うような気がする。今回リーダーリョーくんが限界突破をしたのは目の前にちょうどいい素材があったからだろう。たまたまだ。それをしてしまった僕に落ち度がある。


 相手が限界突破をしてピンチに陥ってはいるものの、こちらもほぼ同じタイミングで限界突破を重ねている。差は広がっていないはずだ。


「1対1になったけど油断しないでね。レベルの上がったリーダーリョーくんはなんらかのステータスが上昇しているはずだから」

「わかってるよ。僕もおそらくまた筋力が1以上増えているはずだ。今なら疲れもなく軽快に動ける気がするよ」

「リョーくんは戦闘技術があるみたいね。大丈夫、ちゃんと戦えているよ。自信を持っていいわ」


 フォルトゥナにそう言われて悪い気はしない。


 だからといって調子に乗るほど僕は自分に自信を持つことはない。そんなことで自信過剰になったところでなんの得にもならないからだ。今のところただそれっぽく戦えているだけ。相手が歴戦の戦士とかだったら言うまでもなく瞬殺だろう。それくらいはわかる。


 リーダーリョーくんが多少イニシアティブを発揮していたとしても所詮はお山の大将だ。ちょっと腕が立つガキ大将のようなものと言ってもいい。それであれば僕にだって勝機はある。自分を過信して油断して、相手から思いもよらぬ反撃を喰らって面食らうのがそういう類の人種のオチだ。それもわかる。さっきの僕がまさにそうだ。


 やっぱり自信過剰だとか油断なんて、なんにもいいことなんてない。


 僕は気持ちを入れ直して剣を構える。


 今のところリーダーリョーくんに大きな変化はない。どのステータスが上がったのかはサッパリだ。もしかしたらなんらかのスキルでも得たのだろうか。


「1対1なら無理することもないな」

「そうね。少し様子を見ましょう」


 フォルトゥナのバフとデバフが切れてしまうのはもったいないが、限界突破を果たしたばかりの相手に無策で突っ込むのはとても危険だ。いずれにせよ条件は同じ。仕切り直しだ。インターバルがあればフォルトゥナからまたステータスバフをかけてもらえる。


 だが、僕達のそんな考えをお見通しだと言わんばかりに、ノーモーションでリーダーリョーくんが行動を開始した。つまり、僕に向かっていきなり飛びかかってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る