限界突破22回目(2)
ど、どういうことだ……!?
僕の頭は混乱する。高橋が戦士。僕と同じ。
僕と……同じ………………?
「清水、大丈夫か?」
「………………そうでもない」
「そっか」
高橋は僕に手を伸ばした。それは握手を求めるようでもあり、倒れそうになった僕を支えるようでもあり。
「ごめん……ちょっと頭が追いつかない」
「そりゃ、そうだよな。すまない、いきなりだったな」
僕は自分の頭を両手で押さえた。
待て待て待て。まだ決まったわけじゃない。高橋はなにかのたとえで言っただけだろう。きっとそうだ。筋肉マスターとして同じ戦士みたいにいい筋肉してる、そういう意味じゃないか?
だって、僕と同じってことは、それってつまり――
「おまえも、限界突破してるんだろ? じゃあ、俺と同じだ」
「限界突破……」
この単語が高橋から普通に出てくるのはおかしい。だって、彼はコンピューターゲームをプレイしない。スマホだって調べ物したり、SNSで友達とやり取りをするくらいだろう。仮にゲームをプレイしたって、それは本格的なコンシューマーゲームではなく、スマホのアプリ。しかも、パズルとかそんな程度はなずだ。
その高橋の口から『限界突破』というゲーム特有の言葉が出てくるなんて絶対におかしい。
……いや、もしかしたら普通に自分の限界を超える意味、文字通りの限界突破として使った可能性が残っている。格闘技やスポーツをやっていれば、自分の限界なんていつでも超えていくものだ。そうしなきゃ上にいけない。
そうだ。なにもゲームに限ったことじゃないじゃないか! 「格闘家として日々トレーニングしておまえも限界突破しているんだろ? じゃあ、俺と同じだ」……うん、充分通じる。そうかそうか。僕の早とちりか。
「そ、そうだよ。僕も限界突破してるんだ。高橋も褒めてくれた筋肉がその証拠じゃないか。ははは」
「証拠? 別に筋肉はなんの証拠にもならなくないか?」
「……えっ?」
「だって、おまえさっきまで戦闘していただろ? バトルフィールドこそ見えないけど、まず間違いなくそうだと思ったから俺は探りを入れたんだよ」
いよいよ専門用語が登場してしまった。それこそ高橋から絶対に出ない言葉。というか普通の人からこのタイミングで絶対に出てきてはいけない言葉。
バトルフィールド。文字通り戦闘の場所だ。僕がドッペルゲンガーと戦うために現実世界に被せられた異空間。普通の人の認識を逸らして戦うためだけの、都合のいい舞台。
「高橋……おまえ……」
「だから俺も同じだって。清水、おまえも苦労してるんだな」
確定だ。
会話が噛み合わない形で噛み合っている。話を逸らそうとしても逸れない。僕に向かった軌道は外れてくれない。高橋は僕に対して、なにも隠そうとしていない。閉じても閉じても、無意味だとばかりに真正面からノックしてくる。
でも僕はどこかでホッとしている自分に気づいている。
僕ひとりだけがドッペルゲンガーと戦い続け、その先になにが待っているのかはわからないけど、いつか迎えるその最後に向かって進んでいるのだと思っていた。僕以外にこんなことをしている人がいるだなんて想像すらしていなかった。
「俺は俺のドッペルゲンガーを倒して限界突破をして強くなっている。……清水、おまえもだよな」
「………………うん、そうだよ」
ずっと伸ばしたままだった高橋の手を、僕はたしかにしっかりと掴んだ。高橋がグイと引っ張る。あまりに強く引っ張られたので僕はバランスを崩して高橋に向かって倒れかけた。そんな僕のことを、なんと高橋がはっしと抱き留めた。
男同士が抱き合う姿に、背後でフォルトゥナがハッと息を飲んだのが見なくてもわかった。その反応は感心しない。あとでとっちめる。
「お、おいっ、高橋!」
「悪い。つい、クセで」
どんなクセ!? 倒れ込んだら老若男女すべて抱き留めるのか。イケメンはやることが違うなぁ。僕だったらかわいい子だけにしか反応しないかも。……というか、そんなに反射神経良くないからいっしょに倒れるだけだな。残念だけど。
「前にも言ったけど、大丈夫、俺にそんな趣味はないから」
「じゃあ、抱き留めるなよ」
「だから、クセなんだよ」
僕を抱き締めたまま――いつまでも抱き締めるな、いい加減離せ――高橋はたのしそうに笑った。
いや、本当にやめてくれないかな。ここ衆人環視の街中だよ? ほら、通りかかった女子中学生の二人組がヒソヒソ話しながらこっちをガン見してるよ? 写メ撮られてるよ? お友達に共有されるよ? SNSにアップされちゃうかもよ?
「いいから離せって!」
僕は高橋を押し返すようにして離れた。「あぁ……」と残念そうな女子中学生の声は無視だ無視!
「そんなに嫌がるなよ。俺だって傷つくんだからな」
「やめろ。そんな趣味ないんだろ?」
「なくても、拒絶って結構ここに来るんだよ」
ここ、と言いながら心臓を親指でトントンとする高橋。なんだか、いちいちサマになるなコイツは。惚れそうになるじゃないか。絶対に惚れないけど!
「ねぇ、リョーくん。せっかくだから、高橋くんとちゃんと話をしない?」
こちらもほんのりと残念そうな素振りを見せるフォルトゥナが、僕に向かってひっそりと囁いてきた。女神様もそういうのがお好みなの? ねぇ??
高橋が「ん?」と首を傾げた。
「そうだね……僕も、それがいいと思う」
「じゃあ、決まりね。場所は私達の家にしよっか」
「僕の家、だからねっ!?」
こうして、僕は高橋は改めて出会った。同じドッペルゲンガーを倒す者同士として。
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