限界突破30回目

「リョーくん!!」


 フォルトゥナが僕のほうに飛び寄ってくる。


 運が良かったのか、僕の装備している旅装束は魔法抵抗性があったのだろう。かなり痺れるが致命傷ということはない。おそらく受けたのは雷撃だ。まさか魔法を使ってくるなんて……。顔に当たっていたらどうなっていたかわからない。体に命中してくれて助かった。


「…………めちゃくちゃ痺、れる。ちょっと、マズイ……かも」

「なんとかしてあげたいけど、私じゃなんにもできることがない……ごめんなさい」

「回復魔法とか使えない、の……? 女神様なんだ、し」

「……私は支援しかできないわ」

「そっか…………」


 それは本当に残念だ。


 女神様の癒やしとか、フォルトゥナが使ってくれるって考えるだけでなんだかとってもいい感じの響きなんだけど。できないのなら仕方ない。


 僕は震える足を踏ん張ってなんとか倒れないようにする。それでも足はガクガクする。


「力は漲っているのに、この痺れは厄介だ……」

「私が、時間を稼ぐわ」


 そう言うや、フォルトゥナが僕と覚醒リョーくん達の間に割って入った。いつぞやの障壁を使おうとしているのだろうか。でも――


「……フォルトゥナは下がってて」

「でも! せめてリョーくんの麻痺が解けるまでは!」

「あの雷撃は危険だよ……でも、もう隠し玉はない、と思う。あとひと息……そう、あとひと息だから」


 僕は「ふぅ……」と大きく息を吐いて呼吸を整えた。


「なんとか、がんばるよ」


 ニコッと笑いを浮かべてみて、それから僕は空いている左手をグーパーしてみる。フォルトゥナが心配そうな顔をしているが、僕は笑顔を崩さない。


 ――よし、動く。


 剣を取り落したりでもしたら最悪だ。僕は片手で持つから片手剣なのはわかっているが、それを無視してしっかりと両手で柄を握って正面に構えた。バランスは悪いが、安定はしている。


 僕は電撃がまた飛んでこないかを特に警戒し、焦らずそのままジッと動かない。僕を囲む包囲網も縮まらない。お互いに様子見だ。


 淡々と時間が流れる。


 膠着状態が続けば圧倒的に僕が有利だ。それがわかっているはずだが、覚醒リョーくん達は攻めあぐねているのか動いてこない。僕は自分の体から痺れがなくなっていくのがわかり、グッと腰に力を溜める。


 雷撃リョーくんが杖を僕に向けた。もう一度雷撃が飛んできたが、タネがわかればどうということはない。僕は直線的な魔法を大胆に避けた。まだ細かい動きができない。大きく動くと隙ができるが、僕に硬直時間はなさそうだ。


 虚しく通り過ぎた雷撃はそのまま突き進み、かなり遠くで石壁に当たって弾け飛んだようだ。雷撃リョーくんがどこか悔しそうな雰囲気を醸し出していた。


 表情が…………ある?


「リョーくん、インターバルが終わったわ!」


 僕が雷撃リョーくんに目を向けていると、フォルトゥナの声が響いた。


 時間の経過はやはり僕に有利に動いてくれたようだ。


 フォルトゥナからのステータスバフはすぐに僕に力を与えてくれた。痺れももうほとんどない。高揚する気分と溢れ出す力が僕の中に充満する。これで戦える!


「ありがとう、フォルトゥナ!」


 そして僕は戻った力を遺憾なく発揮する。


 跳ね上がった瞬発力を推進力に変え、僕は今回一番厄介な雷撃リョーくんを素早く始末することにした。膠着状態を一気に引き剥がした僕に覚醒リョーくん達は動きが追い付かない。


 思い出したかのように右手の覚醒リョーくんが僕にナイフを投擲する。僕は回避することもない。ナイフは大きく狙いを外れて明後日の方向へと飛んでいったようだ。片手剣リョーくんが迫る気配は感じるものの距離がある。


 僕はためらわない。


 雷撃リョーくんが再度杖を僕に向けてきたが、次の攻撃をさせるつもりは毛頭ない!


「喰らえっ!」


 突進の勢いをそのままに、僕は駆け抜けざまに剣を振り抜いた。切っ先は雷撃リョーくんの持つ杖をバキリと割り折り、勢いの残った剣閃は雷撃リョーくんの右脇腹を深々と抉った。


 僕は急制動し、振り返りざまに崩れ落ちようとする雷撃リョーくんの背中をさらに一閃。手応えあり。


 カラン……カラン。


 折れた杖の先端がまず地に落ちて乾いた音を鳴らす。すぐに雷撃リョーくんの手から力なくこぼれ落ちた杖の取っ手が地に転がり乾いた音が重なった。


 僕は右手を崩れ落ちながら光の粒子に変わる雷撃リョーくんの体に伸ばす。まるで掃除機のような勢いで光の粒子は僕の右手の中に消えていく。


 限界突破。


 いつもと異なり、僕は突然脳が活性化したような感覚に陥る。なんだかわからないが、頭が冴えるような気がする。


「もう少しよ、リョーくん!」

「うん、今ならなんでもできそうだ!」


 僕は反転し右手側になった片手剣リョーくんを牽制で睨みつける。剣を振り上げた姿勢のままビクッとその体が震えた。足の動きが止まる。


 次に左手側を見る。ナイフを投げてしまい素手となったはずの覚醒リョーくんは、いつの間にか石斧を持っていた。


 ……さっきの武器を拾われたか。


 数が減ったからさばくのはそんなに難しくなくなったはずだ。とはいえ、どう見てもあの石斧は攻撃力が一番高い。最後の最後にアレを食らってやられるとかシャレにならない。……めんどくさいことをしてくれたなぁ!


 僕の中に敵愾心がメラメラと燃え立つ。


「その武器を拾ったこと、後悔するんだなっ!」


 ターゲットは決まった。


 フォルトゥナのバフはまだまだ続く。


 僕の1対10の戦いは、いよいよその終わりを迎えようとしていた。

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