限界突破13回目
僕はここのところ毎日のように戦闘の舞台に立っている。
今までどこに隠れていたんだ、このドッペルゲンガーたちは!?
「リョーくんもだいぶ戦いに慣れたみたいね」
「そりゃ、これだけ毎日戦っていれば、いやでも上達するでしょ」
学校で地味な学生生活を送り、平日休日問わず場所も問わずにドッペルゲンガーとも戦う。妙な二足のわらじ生活は、今までの何事も起きず目立たず平和に過ごそうとしていた僕の価値観を完全にぶっ壊しに来ていた。
そもそもフォルトゥナが親戚のお姉さん――もとい同級生として同居していることが強烈に僕を賢者に仕立て上げてくる。ステータスは筋力重視の脳筋な僕なのに、スタイル抜群、美人、そして僕を弟のように至近距離で取り扱うフォルトゥナがずっとそばにいるのは高校生男子としてはなかなか自制を保つのを困難にさせてくる。煩悩を抑え込み、フォルトゥナの甘い誘惑に耐え、僕はあくまで社長と従業員という関係の会社員として日々を送るようにしている。
女神様という高貴な存在ともあろう者が、健全な男子を無自覚に誘惑するのはどうかと思う。そこいらの女子が目に入らなくなってあとあと困るのは僕なんだけど。
「それにしても、さすがにちょっと笑えるわね」
「……笑うなよ」
フォルトゥナが言っているのはもちろん僕のステータスのことだ。
かれこれ8体ほど追加で限界突破をした。やはり筋力ばかりが上がっていく。敏捷がついでに上がるから僕としては問題ないとはいえ、知能とか技能とかRPGでいえば魔法使いや盗賊などのスペシャリストのステータスがまるで伸びない。
僕に与えられている未来図は、あくまで戦士一択だ。
幸い、命中率という概念はなさそうなので、僕が当てられさえすれば攻撃が必ずヒットする。謎の命中補正はない。相手も動いているので当然回避はされるが、それはそういうものだろう。当たっているのにミス、ということはないのが僕が脳筋でも問題視していない理由だ。
技能がないから、バカみたいに突進による突き、唐竹割り、横薙ぎ、袈裟、逆袈裟、切り上げ、とそれを交えたコンボ攻撃しかできない。ゲーム的感覚ではあくまでたたかうコマンドの範疇で技と言っていいのかわからないし数が少ない。けど、剣技としては充分立ち回れるのがありがたい。
もっとも、それらの単純攻撃でも筋力上昇の影響で効果抜群になっている。僕がドッペルゲンガーとの戦いで今日まで無事に過ごせている大きな理由でもある。
筋肉をバカにするやつは筋肉に泣くんだよ。
僕はインドアなのに筋肉だけが肥大化する奇妙な体型をとりわけ気に入っていた。高橋が格闘技やれよ、と言っていたのは今思うと正しかったのかもしれない。でも、僕は格闘技をやろうとは思ってはいない。まだまだ1000人のほとんどが残っているドッペルゲンガーとの戦いを思えば、別のことに時間も筋肉も使っていられない。それだったら素振り10000回とかひたすら筋トレとかのほうが役に立ちそうだ。
…………って、僕は別にマッチョになりたいわけじゃない!
「リョーくん、また筋肉見てるわよ」
引かないで、フォルトゥナ。
「いやだって、これだけ筋力が増えたらそりゃ気になるし、気に入ってくるよ? 自然なことでしょ??」
「おやおや、リョーくんは筋肉マスターでも目指しちゃったのかなぁー」
「なにその筋肉マスターって!?」
なんか嫌だなその表現。フォルトゥナのしたり顔もなんだかちょっとイラッとくる。
ビキニパンツに黒光りする肌、それでいて白い歯を見せてキラッと光らせる。逆三角形でいつでもマッスルポーズ。「その筋肉なら国宝入り間違いないっ!」とか、オリジナルな掛け声でも響かせて――
だーかーらー、僕はマッチョなんか目指していないんだって!
「リョーくんごめんなさい! ……そんなに絶望的な顔しなくても。私も、冗談で言っただけだから」
フォルトゥナがハッとした顔になり、すぐに僕に謝ってきた。えっ……?
「……僕、そんなに絶望的な顔をしてるの?」
「それは、もう、ヒドイ顔よ」
フォルトゥナはとても心配そうだ。
「言うならば、リョーくんの目の前で限定版のゲームが最後の1個売り切れて、しかもその帰り道に天気予報にもない大雨に見舞われて傘もない……挙げ句、車にバシャッとやられちゃった上で大きな犬に吠えられた――そんな顔をしてるわ」
「なにその具体的な嫌がらせの数々!?」
フォルトゥナのたとえは実に巧妙だった。絶望を感じるには充分だ。……最後の犬のくだりはそうでもない?
だが、見立てが甘い。僕はそんな愚は犯さない。
限定版のゲームを予約もせずに並んで買えるだなんてまさに情弱の発想。予約開始時間に、即刻予約完了だ。悠然と自宅で待ち構え、ようこそ宅急便のお兄さん。完璧な作戦に思わずにやけてしまう。
「リョーくん、今度は気持ち悪い笑顔をしてるわよ…………その、頭、大丈夫?」
「………………暴言反対」
女神様からここまでストレートに傷つく言葉を言われる僕っていったいなんなんだろう?
僕は、でも、なんだかおかしくてつい笑ってしまう。暴言で笑う僕を不思議そうな顔をして見ていたフォルトゥナ、僕につられて笑い出した。
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