限界突破2回目(7)
フォルトゥナは拗ねたままではあるものの、その頬が異様に赤い。伏し目がちだし、なんだか潤んでいるようにも見える。人差し指の先をちょんちょんと当てる仕草が妙にかわいらしい。さらに髪の毛先を……指でクルクルするだ、と!?
どんなフルコースだ。
これは僕がプレイした恋愛アドベンチャーではかなり好感度が高くなってフラグが立ったときにしか見られないものじゃないのか? ヒロインが主人公に落ちた瞬間の、そのフラグ。しかもツンデレタイプに多い、意表をつくタイミングでの好意の表明だ。
ずっと主人公のことが気になって、好きで、でも照れてしまって反発して好意を表に出すことができない。そっけない態度を取ったり、周りを気にして変な対応をしてしまったり、距離を取ったりしてしまう——それがツンだ。
そんなツンツンとしたヒロインが、あることをきっかけとして不意に素直な感情を表に出してしまう。相手だけじゃなく本人も油断している素の状態。ツンとした態度を忘れ、主人公だけじゃなくて本人も驚くほどの素直な態度。好きの表明——それがデレだ。
今のフォルトゥナはどう見てもデレの状態にしか見えない。というか僕の目が勝手に、フォルトゥナが僕にデレている様子だと読み取ろうとする。……僕の目はバグってしまったのかもしれない。
そんな……嘘、だろ?
……いやいや…………いやいやいや………………いやいやいやいや! ないないっ! 断じてそれはない!!
だって、フォルトゥナは女神様なんだって! 僕はただの平凡ないち男子高校生で、フォルトゥナは運命の女神様なんだぞ? ないない、やっぱりない!!
「ふぅー……」
こういうときは深呼吸だ。深呼吸や瞑想は今この瞬間に気持ちを向かわせてくれる。
僕とフォルトゥナは戦士と女神の関係だ。要はビジネス相手みたいなものと言っていいだろう。むしろ、労働者と雇用主くらいの関係のほうが適切かもしれない。あぁ、僕も一端の社会人になったんだなぁ。そう思ったらちょっと虚しい気もするが、視点を変えたことでだんだんと冷静になってくる。
「ねぇ、リョーくん。なんでリョーくんはそんなに悟ったみたいな顔をしているの?」
「それはね、フォルトゥナ。僕は、悟っているからなんだよ」
フォルトゥナは頬を染めたまま首を傾げ、僕の顔をジッと見ている。僕は表情を消したつもりでいる。
僕の態度と回答がツボに入ったのか、フォルトゥナはプッと吹き出した。
「あははっ、なにそれ? おかしい! リョーくん、それぜんぜん答えになっていないわ!」
「笑いたければ笑えばいい。僕は、すでに悟りの境地に到達してしまったのだから」
「変なのぉ! リョーくんってそんな冗談も言えるんだねー。私、知らなかったなぁー。リョーくんのこともっと知りたくなってきちゃったなぁ」
そりゃ、まだ会ったばかりだからだよ、フォルトゥナ。僕もフォルトゥナのことをほとんどなにも知らない。でも、僕がそう言ったらフォルトゥナのことを教えてくれるのかな?
悟りの境地に達したつもりなはずの僕は、フォルトゥナの笑顔を見ていてまた妙な感情が膨れ上がってきた。いかんいかん。僕はそこに転がっている僕の死体を視界に入れることで不快な気持ちと相殺処理した。あー、限界突破しておかなくちゃ。
フォルトゥナはまだお腹を抱えて笑っている。そんなにツボに入ってしまったのか?
あんなに大きく口を開けて、フォルトゥナ本当に楽しそうだなぁ。
あぁ、フォルトゥナの笑顔、かわいいなぁ………………って、これ全然悟れていないよね、僕!?
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