限界突破2回目(2)

 野良リョーくんとは異なりリーダーリョーくんの動きは素早かった。


 頭を低く落とし、低空姿勢で前方に走るその姿は理に適っている。空気抵抗の少ない走りはわずかな距離を詰めるのにはもってこいだ。まるで地を這うほど低く走るリーダーリョーくんは僕に一気に迫り寄ると右腕を大きく後ろに引いた。突進の勢いで腕で薙ぎ払うつもりだ。


 あまりにもわずかな時間での肉薄に、僕は咄嗟の判断に迷ってしまった。


 結果——防御を選択してしまう。これはいい選択じゃなかった。


 高速移動に加えて、僕とは比較にならない膂力で振るわれた豪腕は、受け止めた剣ごと僕を吹き飛ばすには充分な威力だった。


「……がはっ!」


 吹き飛ばされて地面に強かに背中を打ち付けた僕は、肺の空気が一気に全部抜け切ってしまったように感じた。呼吸がしづらい。弾かれた勢いで無様に地面を跳ねて転がる。バウンドした体が止まると、僕は痛む肺に強引に空気を取り入れて無理やりにでも筋肉を動かした。


 リーダーリョーくんの攻撃でかなりふっ飛ばされている。だからこそ追撃には距離がありタイムラグがあった。僕は剣を地面に突き刺して膝立ちになる。次に攻撃が来たら避けられそうもない。これは、かなりヤバいぞ……。


 僕はなんとか立ち上がろうとするがうまくいかない。リーダーリョーくんは低空走法で確実に近づいてくる。万事休すか……。


「させないわっ!」


 フォルトゥナが僕とリーダーリョーくんの間に割って入った。両腕を横に広げ、僕を庇うように立っている。


「フォルトゥナ、危ないから避けて!」

「大丈夫………………よっ!」


 リーダーリョーくんがフォルトゥナに攻撃した瞬間、フォルトゥナの正面に空気の波紋が生まれた。透明な壁に阻まれたリーダーリョーくんの動きが一瞬止まった。自分の拳を見て、再びフォルトゥナに向かってその拳を繰り出した。その攻撃はまたフォルトゥナに届くことなく空中に波紋を広げる。


 なんだ? なにが起こってる? もしかして、これは……バリアみたいなものなのか?


「ちょっとくらいは攻撃を防げるけどいつまでも保たないわ。私が攻撃を防いでいる間にリョーくんは態勢を整えて!」


 ガンッ、ガンッ、波紋が何度も波打つ。やはりバリアのようだ。フォルトゥナの言うように耐久度はそこまで高くないのかもしれない。攻撃を受けるたびにピキピキとひび割れのようなものが広がっていく。


 僕がなんとかしないとフォルトゥナが危ない!


 このままだといつかあの障壁が壊されて攻撃がフォルトゥナに届いてしまう。もしそうなったら…………僕は思い浮かんだ不吉な未来を頭を振って追い払う。


 そんなことには…………僕が絶対にさせるもんかっ!


「フォルトゥナ、もう少しだけ耐えて! その間になんとかするから。それと、もし危険だったら僕を置いて逃げてもいいから……無茶だけはしないでよ」

「ふふっ、そんなに心配してくれるなんてリョーくんは優しいね。それと、リョーくんは私のことをもっと頼ってもいいのよ? そうしたら、私もっともっとがんばっちゃえそうだから」


 フォルトゥナがまた軽口を叩いたがあまり余裕はないだろう。


 リーダーリョーくんは僕に向けても油断なく目を配りつつ、それでも腕だけはまるで別の生き物であるかのように、大きく振りかぶっては何度も何度もフォルトゥナの障壁にぶつけ続けている。表情と行動が合わない不気味さは何度見ても見慣れることはない。


 攻撃を受け続けている障壁のひび割れは見える範囲全部に広がっている。もうあと何発も保ちそうもない。


 僕は焦る気持ちを押さえつけ、深く深く大きな呼吸を繰り返す。落ち着け。落ち着くんだ。


 僕が————僕があいつを倒してフォルトゥナを守る!

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