限界突破22回目(6)
さわやかな目覚め。快晴の青空に向けて大きく背伸びをして残った眠気を振り払う。
高橋という戦友(?)を得た僕は、その日とても気持ちよく寝ることができた。フォルトゥナが横で寝ているのもお構いなしだ。しかし、なぜ同じベッドで寝ようとする。親戚、つまりいとこ設定なんだからそこまでべったりは変だろうよ。
両親もなにも言わないのはフォルトゥナが妙な力を使っているからだ。学校でもそうだけど、記憶操作なのかわからないなんだか摩訶不思議な現象すぎて詳しく聞く気も起きない。
「おはよう、リョーくん。いい朝ね」
「おはよう、フォルトゥナ。……寝癖ひどいよ?」
「え、嘘?」
フォルトゥナは両手でササッと頭を撫でつける。一瞬だけ落ち着いていた青髪が、耐えられずにまたぴょろんと跳ねてちょっとカワイイ。
寝るときは僕のTシャツを着るフォルトゥナは、胸のサイズが合わないからそこだけぴっちりとして強調がヒドイ。普段着のほうが露出が強いから、肌色は控えめだけどそういうもんじゃないんだなぁ、とフォルトゥナを見て初めて理解に及んだ。教室でグラビアを見ながら誰かが言っていたな「見せすぎで萎える」って。
「しかし、昨日のフォルトゥナはいつにも増して攻撃的だったよね」
「ヨハネのこと? それはそうよ。あいつずっと子供の姿だから、私のことババア呼ばわりするのよ? まったく失礼しちゃうわ」
「そういえばヨハネっておじいちゃんみたいなしゃべり方してたけど、実際いくつなの? というか年齢設定あるの?」
「年齢? さぁ、私はわからないわ。私たち女神だけじゃないと思うけど、年齢は特に数えていないのよね」
「そういうもんなんだ? じゃあ、フォルトゥナも何歳かはわからないってこと?」
「え、ええ、そうよ!」
んん? なんだろう、フォルトゥナのこの反応。
「フォルトゥナって、実は数えているクチ?」
「えっ? な、なんのことかしら……」
言外に聞くな、と言っている。知りたい気持ちもあるけど、何百歳と言われても反応に困るし、これ以上詮索するのはよしておこう。「まぁ、いいや」という僕の言葉にフォルトゥナがホッと胸を撫で下ろす。
「高橋とヨハネっていう僕とフォルトゥナみたいな関係があるってことは、他にも僕達みたいにドッペルゲンガーを倒している人っているのかな?」
「いるわよ。結構な数」
「……ホントに?」
「ここで嘘を言ってどうするのよ。私はリョーくんを選んだけど、ヨハネが高橋くんを選んだように、他にもやっぱりどこかのだれかが同じように限界突破をするために選ばれているわ」
「へぇー、気付かないもんだね」
「それぞれ個別に戦っているからね。道端でバッタリ出会うこともあるかもしれないわ。もっともその場合ドッペルゲンガーかもしれないけど」
「それだよそれ! 僕は僕のドッペルゲンガーにしか遭っていないけど、他のドッペルゲンガーもいるんだよね? 高橋のとか」
「いるわよ。そこら中に」
「……ホントに?」
「だから、ここで嘘を言ってどうするのよ」
同じやり取りになってしまった。でも、僕は高橋がドッペルゲンガーを倒していることを知ったのはつい昨日の話だ。僕と同じ期間戦っていたのにも関わらずだ。高橋から見た僕も同じだろう。自分だけがドッペルゲンガーなんていう奇妙な存在と戦っていると思い込んでいた。
ところが、そこら中にドッペルゲンガーもいて、それを倒している者もいるというのはにわかに信じられない。高橋のように向こうからコンタクトを取ってくれないと一生気付けない可能性すらあるぞ。
「仮にリョーくんがだれかのドッペルゲンガーに遭遇しても倒しちゃダメよ?」
「命の危機に遭っても?」
「そこは私がケアするわ」
つまり命の危機に陥る可能性はあるってことか……。
僕以外に僕のドッペルゲンガーを倒されてしまうと、純粋に僕の限界突破回数が減ってしまう。うまく死体を発見できれば吸収できるかもしれないけど、どうやら限界突破には条件がありそうだ。
「もし僕のドッペルゲンガーを僕以外が倒した場合ってどうなるの?」
気になったので直接聞くことにした。さて、フォルトゥナから明快な答えは返ってくるかなぁ。
「まず倒せないと思うけど、もし倒されちゃった場合、リョーくんは最終的にちょっと不完全になるわ」
「ちょっと不完全……嫌なパワーワードだな」
「前にリーダーリョーくんが野良リョーくんを限界突破したことがあるじゃない?」
「あぁ……」
僕が失敗したやつだ。
倒したのと別のドッペルゲンガーがいる場合、僕が倒したという条件を満たしているから倒されたドッペルゲンガーは限界突破できる状態になる。そして限界突破できるのは僕だけじゃなく、僕のドッペルゲンガーでも同じ。早い者勝ちに負けると限界突破をプレゼントしてしまう実に厄介なシステムだ。
「二度とゴメンだけど、いつかまた起きそうだよねぇ……」
「あれって、限界突破の回数は1回減ってるんだけど、限界突破した数はちゃんとカウントされているのよ。気付いてた?」
「えっ! そうなの?」
「気付いていなかったんだ。リョーくんは限界突破で筋力ばっかり上がるから実感が沸きづらいのかもしれないわね」
「知っていたんなら教えてくれても良かったのに」
「なんとなくわかるかなぁって思ってて」
テヘペロはやめいと言うに。
説明不足はフォルトゥナの真骨頂だ。あとから教えてもらえただけでもマシと言えよう。
しかし、限界突破の回数は減るのに僕の完全体(?)を目指す上では損はないというのはどう解釈すればいいのだろうか。極端な話、残り900体くらいを限界突破した最強のドッペルゲンガーを僕が倒した場合、限界突破回数は1回増えるだけでステータスは900体分くらい伸びるってことなのか? それともあくまで不完全にならなくて済むだけで、ステータスアップは最小限なのか。
試したいが試しづらい事案だな。なにより、そんな最強のドッペルゲンガーに勝てる絵面が浮かばない。僕がやられてあえなくゲームオーバーが関の山だろう。
「確実にリョーくんは強くなっているわ。油断せずにいきましょう」
「お、おぅ」
なんかいい感じにまとめようとしているな、フォルトゥナ。グッと前のめりにガッツポーズをされると、意識せずとも胸の谷間が目に入ってしまう。
……まったく、朝から刺激が強いな。
「あっ!!」
「うわっ、ビックリした!」
急にフォルトゥナが大きな声を出したもんだから、視線を漂わせていた僕はめちゃくちゃ驚いた。大袈裟に飛び跳ねて、背中を机の角にぶつけるという予期せぬ衝撃に思わず息が止まる。
「……いたた」
「リョーくん、エマージェンシーよ」
「僕の背中が非常事態だよ」
「ドッペルゲンガーが出たわ」
「………………マジですか」
こんな気持ちのいい朝からかよ……。しかも、背中がめちゃくちゃ痛いよ……。
「覚悟はいい?」
「よくないけど、どうせ関係ないんだろうし、いいよ、べつに」
「じゃあ、舞台を用意するわ。10体の相手だから見晴らしよくしないとね」
………………フォルトゥナさん、今、なんと?
「じゅ、10体っ!?」
「そうね、10体ね」
「そんな普通のことみたいに……」
「じゃあ、行くわよ」
聞く耳持たず!
僕はただただ背中の痛みをどうしてくれようか、という思考に引っ張られたまま、情け容赦なんて存在しないくらい至極あっさりと戦いの舞台に放り投げられた。
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