限界突破2回目(3)
フォルトゥナの障壁が破られるのと同時に、僕は持てるすべての力と気合いを全身に投入した。
「フォルトゥナ、待たせてゴメン!」
「ギリギリセーフ……ね」
僕は障壁が破られる瞬間に合わせて側面からリーダーリョーくんに走り寄った。生まれてこの方、出したこともない全力で。思ったよりも速かった。限界突破2回の恩恵かもしれない。
リーダーリョーくんも強引に障壁を破ろうとしていたため、最後の一撃を放った際に大きく姿勢を崩していた。もともとフォルトゥナ自体に興味はなかったのか、はたまた邪魔な壁を追い払えて満足したのか、豪腕を振り抜いた姿勢のまま顔だけを上げて改めてターゲットであろう僕を睨みつける。その目には憎しみのようなものが浮かんでいた。
まさか、僕の生涯で誰かからこんな目で見られる日が来るとは思わなかったな。しかも、僕と同じ顔を持つ分身からだなんて悪い冗談だ。せめて僕はあんな目をしないでおこうと強く決めた。
感情のないはずのリーダーリョーくんから憎悪を感じたのは気のせいだったのかもしれない。でも、あきらかに僕に執着をしている様子だ。部下を2体も殺したからだろうか。それとも、限界突破の高揚がそうさせているのだろうか。
あるいは、限界突破を繰り返すとオリジナル度が上がっていくという仕組みだという可能性はないか? 魂のない機械も学習をする内に心を持つだなんてファンタジーの世界ではスタンダードだ。
ドッペルゲンガーではなくともコピー人間が自分こそが本物だと思うなんて話もある。その立場に立ってみたら、本物だという人間が目の前に現れたとしたらどう思う? もう憎くて憎くて仕方ないんじゃないか? つまり、僕はそう思われている可能性がある。もし、目の前の分身にそういう心があるのだとしたら。
……もう考えるのはやめよう。あまり感情移入をしたくない。
だって、僕は自分以外の僕をすべて倒す。つまり殺し切るんだ。相手に心があると知り、僕はそれを続けることができるのだろうか。今はある意味ゲーム感覚でことを進められる。そういう設定だからだ。
…………やっぱり考えちゃダメだ。
「リョーくん、残念だけどしばらくバフもデバフも使えないわ! サポートできなくてゴメンね」
僕が考えすぎてしまい心が闇に触れてしまいそうなとき、フォルトゥナの声は救いになる。女神様だからなのか。それとも——
「あれだけ時間を稼いでくれたら充分だよ。……でも、あまり危ない真似はしないでくれないかな」
「心配してくれてありがとう。リョーくんが戦わないといけないんだから、せめて私はできる限りのサポートをしたいの。もっと頼ってね?」
僕は構えていた剣をリーダーリョーくんに向かって横薙ぎに振るう。リーダーリョーくんは倒れかけていた低姿勢からさらに体を沈め、僕の攻撃を紙一重でかわす。クソッ、今のを避けるのかよっ!
「フォルトゥナが守ってくれなかったら僕はきっともうやられていた。命の恩人だよ、フォルトゥナは」
素直な感謝が口から出てきた。言ってからなんだか照れくさくなる。
横薙ぎの勢いを利用して僕は体を一回転させて再度剣を横薙ぎに振るう。薙ぎ払いから回転斬りへのコンボ攻撃だ。
二撃目の軌道は真横からではなくやや斜めに変える。袈裟斬りになったその攻撃は残念ながら再び空を切る。リーダーリョーくんは不格好に転がって避けた。
ここで僕の体が硬直する。またか……!
もしかして、この世界では攻撃モーションに硬直時間が設定されているのか? コンボ攻撃でうまくそれをキャンセルすることで連続攻撃ができるって仕組みかもしれない。コマンドRPGではなく、格ゲーやアクションゲームに近い仕様か?
僕はやたらと重く感じる剣を引き戻し、なんとか剣を下段に構えてリーダーリョーくんに追撃を試みようとする。
まだどんな攻撃がどういうタイミングで使えるのか僕自身がわかっていない。今までもただただ、たたかうコマンドだけを連打して勝手に攻撃が繋がっていたに過ぎない。少しでも有利に戦うためにはなるべく早くこの世界の戦いのルールを掴まないといけない。
僕がリーダーリョーくんとの間合いをジリジリと詰めていると——急に剣が軽くなった。
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