限界突破3回目(3)
「………………どんな悪い冗談だ」
僕のクラスにいきなり転校生がやってきた。なんの前触れもなく、唐突に。
高校生らしくない美貌は僕の記憶に新しい。スタイルは抜群とかいう次元じゃない。クラスの女子が全員見劣りしてしまってかわいそうなくらいだ。当然のように男子の目は釘付けだ。どこを見ているかは人によるだろうけど、どこを見ても完璧な女性がそこにいる。
……フォルトゥナだ。
「やっほー! リョーくん、来ちゃった!」
テヘペロはやめろ。
「清水の知り合いか……?」「あの根暗の清水があんな美人と知り合えるか?」「お姉さんとか?」「同級生なのにお姉さん? 全然似てないよな?」
みんなの頭にハテナマークが浮かんじゃってるぞ! そりゃそうだ。僕が第三者だったらそうなる。
担任の里穂先生から僕達に対し、軽く事情の説明があった。その後、先生に促されてフォルトゥナは簡単に自己紹介をした。淀みなくスラスラと答えるさまはいっそ清々しいほどだ。
——全部ウソだけど。
「というわけで、フォルトゥナさんはまだわからないことばかりなので、みんなでちゃんと教えてあげてね。フォルトゥナさんもわからないことがあったら先生じゃなくてみんなに聞いてね?」
「わかりましたー。リョーくんに教えてもらうので大丈夫だと思いまーす」
「そうね。清水君なら真面目だから間違いないと思うけど、みんなともちゃんと仲良くしたほうがいいと思うわ」
「んー? わかりましたー」
わかっていないような気がする。でも、フォルトゥナならすぐにみんなとも打ち解けられるんじゃないか。僕は目立たないように地味にしているが、フォルトゥナはあれだけ明るいんだからすぐにみんなの輪に入れるだろう。そして、僕はまた目立たずにひっそりと日々を送るのだ。
「なぁ、清水」
「……なに、高橋?」
「……あのフォルトゥナって子、本当におまえの親戚なのか?」
「…………うん」
クラスで目立つイケメンの高橋が急に僕に話しかけてきた。普段から接点はあまりないはずだが、フォルトゥナという一石により波紋が生じてしまったか。
なんだか高橋から疑われているようにしか思えない。どうやったのかは知らないがフォルトゥナは僕の親戚ということになっている。あきらかに名前の国籍が違うけど、本当にどうやったんだ?
僕はウソをつくのがうまいほうじゃない。むしろヘタだ。高橋のいきなりの質問に答えに窮したのは言うまでもない。認めるだけで精一杯だ。だって、その答えがウソなんだから。
「ふーん……」
高橋の目が冷たい。全然信用されていないな、これは。彼はジッとフォルトゥナを見ている。なんだかフォルトゥナの周りに人が集まっているが、フォルトゥナが妙にソワソワしているように見える。どうしたんだろう?
「あの子、おまえに似てないよな」
「親戚だからってソックリってわけじゃないし」
「たしかにな。でも、似てないな」
えらく食いつくな、そこ。似てないケースもあるって認めてからもう一回確認しないでほしい。だって似てるわけないじゃん! 僕とフォルトゥナは他人なんだから。
「……なぁ、高橋」
「ん?」
「そんなにジッとフォルトゥナのことを見てるけど、もしかして気になってる……とか?」
「…………」
だから目が怖いって!
高橋は僕のことを睨みつけている。普段接しないからわからなったけど、高橋ってこんなに目つきが悪かったのか。高橋はこのクラスでは目立つほうだ。よく友達同士集まってたのしそうに笑っていた。笑っていることが多いから、目つきの悪さに僕が気づかなかっただけなのかもしれない。
「…………」
「…………」
なんなんだ、この沈黙は……。
僕はもう高橋から解放されたかったが、なぜだか僕の席から離れてくれない。なんならフォルトゥナの輪のほうに行ってくれ。
「…………めちゃくちゃタイプだ」
「………………え?」
「あの子、どストライクだ」
「………………あ、そうなんだ」
なぜそれを僕に言うかなぁ?? 僕ら接点ないんだってば。そういうデリケートな話は仲良しの友達に言ってくれよ!
「おまえはどうなんだ?」
「……んん?」
「フォルトゥナちゃんのこと、好きなのか?」
「…………なぜ?」
「なんとなく」
なんとなく……って、なに?
「…………なぜ?」
僕は思わずリピートしてしまった。僕がフォルトゥナのことを好きかどうか今関係あった?? ダメだ、高橋の考えがまったくわからない。
「今まで気づかなかったんだが、おまえは俺と同じ匂いがする」
「に、匂い……??」
「ああ」
目つきが悪いものだと思っていたが、どうやら相当真剣な表情のようだ。普段の明るさからは想像しづらいが、真面目な態度だと高橋はかなり鋭い雰囲気になるんだな。……ちょっと怖いし。
「おまえ……本当に清水か?」
高橋の鋭い目に射抜かれた僕は、その問いにすぐに答えることができなかった。
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