第35話 全速力で走れ

 唐突に眠ってしまったのだが、結局三十分後くらいに目覚めた。

 というのも、妙に暑いなと思ったら朱里さんが顔を俺の方に向けて、抱きつきながら寝ていたから。だから目が覚めてしまった。


 しかも膝枕の態勢は完全に崩れていて、二人ベッドに寝っ転がっている。

 

「(いい匂い過ぎる……)」


 朱里さんは心底気持ちよさそうに夢の世界で散歩中。

 

 ほんとこの人は無防備すぎる。

 服がはだけて下着が見え見えだし、胸だって俺にめちゃくちゃ当たってる。

 そもそも俺を抱き枕にして寝ているのがおかしいか。


 だけど、それ以上に驚きなことがある。

 俺はこんな状況でもぐっすりと眠っていたし、そもそも朱里さんが膝の上で寝ているのに、眠りに落ちてしまった。


 つまり俺は、安心して眠っていたのだ。


 普段昼寝なんて絶対にしない。

 確かに朱里さんの寝顔を見て俺も眠くなったっていうこともあるだろうけど、それ以上に安心感があったことが大きいような気がする。


「(一緒に寝れるなんて、俺やっぱり朱里さんのこと好きなのか?)」


 もし仮に朱里さんのことが好きだとして、その先に何があるんだ?

 

 堂々と朱里さんのことを触れられる、受け入れられる。

 キスや、その先だって……。


「深く考えすぎだな」


 思考がこんがらがってきたので、一度無にし、朱里さんから身を解放して起き上がった。


 わずかな三十分ほどの間だったが、スマホに通知がたくさん来ている。

 あの二人で間違いないんだけど。


 気だるげにメールを開いた。


『玲央先輩がくまのキーホルダー買ってくれました! 優しすぎてめっちゃキモいです!』


 辛辣すぎだろ……。

 でも確かに玲央がそんなことをするなんて想像できない。

 

 あいつの本気度が伝わってくる。

 とりあえずこれには、『よかったな』と返しておいた。


 次は……


『見ろこのファッション。俺様に似合うだろう?』


 そのメッセージとともに純白のスーツを着た玲央の写真が送られていた。

 

 普通にデート楽しんでるな二人とも。

 もっと緊張感あって、ガチガチになるかと思っていたがそんなことはないようだ。

 

 さすが付き合いが長い幼馴染なだけある。

 普段二人がいるところを見るだけでも、相性がいいってことがわかるからな。


 この返信に困るメッセージには、『ウケる』と似合わない言葉を返しておいた。


 数分後、『お前の目は腐っているゾ……』と返ってきた。





 夕方の五時くらい。

 もう辺りはオレンジ色に染まっていて、俺もそろそろかと緊張感が走っていた。


 ちなみに朱里さんはまだ寝ている。

 逆にそこまで寝れることがすごいなと感心するレベルだ。


 間もなくあの二人が告白する。


 両方告白する覚悟なので、確実に二人が結末を迎える。

 二人が両想いなことは知っているので悲しい結末が訪れることはないので安心してもいいのだが……なぜか当人ではない俺でも緊張してしまう。


 今の俺では何もできないので、「がんばれ」と念を送っておく。


 それが二人に届いたのか、二人からメールが来た。


『今から告白する場所に行きます』


『俺、行ってくるわ』


 ついにか……。

 唾をのんで、二人に思いを込めた『がんばれ』という言葉を送る。


 二人は俺の大事な友達。

 やはり二人には幸せになってもらいたいという気持ちが強い。


 でも大丈夫だ。

 俺が心配、緊張をする必要はない。


 だがなんだかそわそわしてきて、その後しばらくは部屋を歩いたり掃除したりしながら、二人の連絡を待っていた。


 すると、手の中のスマホが「ピコン」となった。


『直哉! 今すぐにあの公園にこい! 今すぐにだ!』


「えっ?」


 ふざけている感じなど全くない、切迫感あるメッセージ。

 

 そのメッセージを見た瞬間、返信することも忘れて部屋を飛び出した。


「一体、何があったんだよ……」


 全く見当はつかないけど、とにかく全速力であの公園に向かった。

 

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