第34話 膝枕と順風満帆

 昼過ぎ。

 どうやら映画を見終えたらしい玲央と渚は某ファストフード店にて昼食を取っている模様。


 なぜここまで詳しく知っているのかというと、なんだかんだ逐一状況を報告してくるから。逐一話しかけてくる朱里さんを彷彿させるほどだ。


 ちなみにそんな寂しがり屋の極地に到達している朱里さんは、俺の膝で昼寝中。

 今日は朱里さんが唯一作れるという餃子を昼ごはんに作ってくれたので、疲れているようだ。


 ただ、その餃子(冷凍食品)を解凍しただけだけど。

 俺でも冷凍食品を解凍しただけで自分が料理できるなんて自負しない。

 でもそれを自慢げに言えちゃう辺りほんと朱里さんだよなぁと思う。


「ほんと、寝すぎですよ……朱里さん」


「むにゃむにゃ……直哉君っ! そこ!」


「どんな夢を見てるんだ……」


 起きてるんじゃないかと思って頬をつついてみたが、応答なし。試しに唇を触ってみたが、起きるそぶりもなかったので、これは完全に眠っているのだろう。

 前に唇を触ったら、食べられたからな。


 朱里さんの寝顔を見ながらぼーっとしていると、「ピコン」と携帯が鳴った。


『見てこれめっちゃうまそうじゃない? 玄米バーガー!』


 普通にデート楽しんでるな。


『玄米って合うのか?』


『健康志向高めの女子には人気らしいゾ』


『お前はそこに食い込んでくるんだな』


『男でも健康は大事だゾ』


 なんだろう。普段からカップ麺生活を送っている俺に対するメッセージのようにしか思えない。

 そろそろほんとに自炊できるようにならなきゃなぁとは思うんだけど……どうにも行動力が沸かない。


『先輩先輩! あの玲央先輩がウィンドウショッピングに付き合ってくれるらしいんです!』


『よかったなー』


『まぁ武力で押し込めたんですけどね(o^―^o)ニコ』


 全然笑い事じゃない……しかし、あの二人の距離感的には別にいいか。

 というか、玲央にはドM疑惑があるのでもっとやってあげろと思う。


 それにしても、順調そうで何よりだった。


 やはり心配する必要なんて何もなくて、後は二人が告白に踏み出せるかどうか。

 でも実際お互いが告白しようとしているのだし、決意は固そうだったのですぐに決着はつくだろう。


 あの行動力は俺にはないものだ。


 こうして膝の上で寝ている朱里さんに対する自分の気持ちがわからないほどなので、行動力がどうこうの問題ではないけど。


『というわけで、告白は予定通り夕方になりそうです!』


『そうか』


『なので絶対に夕方は空けておいてくださいね?』


 夕方は空けておく……?


 別に告白しに行くわけでもないし、現場に行くわけでもないからなんで空けておかなきゃいけないんだ? と疑問に思ったのだが、そもそも予定がない。


 それにすぐに告白の結果伝えたかったりするのかなと解釈しておいた。


『わかった』


『では、引き続き楽しんでいきまーす』


『玄米バーガーめっちゃ飽きるゾ。あと、食べづらいゾ』


 二人ともめちゃくちゃマイペースだな。

 でも、二人が自然体でいられることこそ、付き合うことに値するのかもしれない。


 だとしたら、自然体の極みである睡眠を俺の膝の上で寝ている朱里さんとなら、付き合うに値するのだろうか。


「……わからん」


 考えれば考えるほど頭がごっちゃになったので、考えるのをやめてまた朱里さんの寝顔に視線を向けた。


「(やっぱり美人だな……)」


 素直に美人だと思うし、可愛いと思う。

 

 やっぱりこの気持ちが、好きってことにつながるのかな……。


 結局朱里さんのことを考えてしまう。

 最近はそればかりだ。


 ふと、睡魔が訪れる。

 それに抗えなくて、膝枕したまま眠りに落ちてしまった。

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