第20話 美人なお姉さんはお泊り会がしたい

 まだまだこれからな夜。

 今日は一人で夜の宴をしようと思っていたのだが、急遽朱里さんが参戦することになったので買い出ししなければいけないということになり、二人でコンビニ向かっていた。


「こうして並んでるとカップルみたいじゃない?」


「保護者と保護対象だと思いますよ」


「そうかぁ、私が直哉君を保護かぁ」


「僕が保護者ですけどね」


「えぇー‼」


 おそらく朱里さんは一人でいるときは大丈夫なのだが、俺や真澄さんといるときはどうやら覚醒するらしい。

 かといって夜に朱里さんを一人買い出しに行かせるのもどうかと思うし、俺の家に残留させるのも絶対にダメだ。下着とかを漁られそう。


「でもこうして二人で歩いてるだけでも、私は幸せだなぁ」


 朱里さんは急に真面目なことを呟いた。


「失礼になっちゃうかもしれないんですけど、朱里さんってほんとに僕のことを……その……」



「好きだよ?」


 

 俺が聞く前に、朱里さんは答えを言ってくれた。


 俺は朱里さんのことを真剣に考えようと思っていた。

 そのため、きっとそんなことはないとわかっているのだが、最後の確認をしたかった。

 しかし、もうこれで確認することもなくなった。


 なぜなら朱里さんの目はまっすぐに俺の方を向いていて、真面目な表情を浮かべる朱里さんに嘘はないと確信したから。


 だから、俺は真剣に朱里さんとの交際について、考えることにした。


「あっ、間違えた。大好きですぅぅぅ‼」


「うわっ⁈ ちょ朱里さん? 近いですから。ここ外ですから‼」


「じゃあ部屋に戻ったらたーっぷりね?」


「それもダメです」


「えー私にここまで言わせておいてー?」


 それを言われると何も言えなくなる。


「んもぅ。まぁいいよ。直哉君が答えを出すまで、私は直哉君を好きでいるから」


 今度は無邪気な笑顔を俺に見せてくれた。

 

 どうしてそこまでフィーリングで俺のことを好きになってくれるんだろうか。

 同じ恋愛未経験者であるはずなのに、俺には朱里さんのような大胆さが欠けている。


「さぁ直哉君! 夜はこれからだからねぇ?」


「……お酒は、ダメですからね?」


「えぇ⁈ お酒を飲ませてそのままナイトパーリィをしようと……って、直哉君未成年じゃん!」


「気づくの遅いですよ」


「じゃあ私だけでもお酒を……」


「今日はジュースで我慢してください」


「えぇー」


 そんな会話をしていると、あっという間にコンビニに到着した。

 

 朱里さんが何度もお酒をかごの中に入れようとするのを防ぎながら、何とか買い出しを済ませることができた。ほんと、朱里さんって大人なのかと疑う。


 そしてさっさと家へと帰り、宴を始める。


「えぇー私たちの結婚を祝しまして、乾杯‼」


「結婚してませんから。まぁ、乾杯」


 朱里さんはオレンジジュース。俺はエナジードリンクで乾杯した。

 お互いに一気に飲んでいく。


「ぷはっー! アルコールほしぃ‼」


「その発言やばいですよ。お酒は控えめに、ですよ?」


「直哉君がしっかりしすぎている……これは今日の夜に一つになれない可能性が高い……?」


「可能性最初からゼロですよ。そもそも僕はまだ高校生なんですからね?」


「じゃあ高校を辞めればいいんだ!」


「テロリストですか? というか、酔っ払ってます?」


 はっと思い出す。そういえば、元から朱里さんはこんな感じだったと。

 しかし雰囲気に酔うタイプなのか、朱里さんの頬は赤い。


「直哉くぅーん。そろそろいいじゃなぁい?」


「よくないですよ。第一僕たち付き合ってませんから」


「えぇーん……まぁ、それは待つって話だったもんね。よしっ、私いい子になろうと思います!」


 そういいながら、朱里さんは俺に抱き着いてきた。

 ほんと寂しがり屋にもほどがある。


「朱里さん抱き着かないでくださいよ。いつも近すぎるんです」


「これが私たちの適切な距離だと思うのよ」


「それはおかしいです」


 なんとか言い聞かせて、隣に座らせる。

 朱里さんに抱き着かれることが慣れてきている自分が怖かった。

 常日頃からだもんなぁこの人は。


「さぁ! 直哉君との夜を楽しみましょう!」


「言い方をどうにかしてくださいよ……」


 朱里さんはどうしてか発言が意味深になってしまう。

 俺はそれにため息をつきながらも、もう一度朱里さんと乾杯した。




    ***




「むにゃむにゃ……」


 朱里さんはその後速攻で寝た。

 俺のベッドを陣取って、気持ちよさそうに眠っている。


「ほんと自由奔放すぎるんだよなぁこの人は」


 とりあえず机に散らかったものを片付けて、床に腰を掛ける。

 朱里さんは俺のベッドで寝ちゃっているし、俺は床で寝るか。


 そう思っているのだが、エナジードリンクを飲んだせいか目が覚めている。


「なんだかこの感じ見覚えあるなぁ」


 つい数週間前、この状況と全く同じ状況に出くわした。

 それが朱里さんとの出会いだったな。


 もちろん、あの時と同じように俺は手を出すつもりはない。というか、出してはいけない。

 

 ただ、俺は朱里さんのことを好きなのか。それを確認したかった。


 ふと、寝ている朱里さんの姿が視界に入る。

 

 何もするつもりはない。

 ただ、眠っている朱里さんを冷静な俺が見てどう思うのか、知りたかった。


 恐る恐る、起こさないようにベッドに寄る。

 本当に悪いことをしている気分になった。

 ただ、朱里さんも無防備すぎる。こんなんじゃ、いつも言ってるみたいに「私に何かしてもいいよ」って言ってるみたいじゃないか。


 罪悪感と闘いながら、忍び足でベッドに近づき、しゃがんだ。


 朱里さんは寝息を立てて、本当に気持ちよさそうに眠っている。


「(やっぱり、朱里さん美人すぎるんだよなぁ)」


 こんな美人な人を俺は見たことがない。 

 それに、きっとこの先それが更新されることもないだろう。

 

 そんな美人なお姉さんが俺のことを好き……やっぱりどうも現実味が沸かない。

 ただ、ここで重要なのはそんなことじゃなくて、俺は朱里さんのことが好きなのかということ。


 顔を見ているだけじゃわからない。


 罪悪感がとんでもなくあったのだが、朱里さんの頬に触れたくなった。


 触れてみたら、わかるかもしれない。

 そう思って朱里さんの白い肌に手を伸ばす。

 

 その瞬間、その手をつかまれた。


























「捕まえたっ♡」















 そのまま、ベッドに引き込まれた。




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