第32話 美人なお姉さんは愛を分け合いたい
激辛カップラーメンを食した後、辛さを紛らわすために甘いココアを飲みながらテレビを見ていた。
朱里さんの影響でだんだんと激辛にはまっていく自分がいる。でも、一向に辛さが克服される気配はないけど。
「いやぁ激辛の後の甘いものは最高だねー! サウナの後のコーヒー牛乳的感じでさ」
「その気持ち、わからんでもないです。でも朱里さん追加で唐辛子フレーバーかけるってすごすぎませんか?」
「私は刺激を欲してるのよ! 昔はそれで気持ちが晴れたからね」
一種のストレス解消方法ということか。
確かに、辛い物を食べてストレスを解消するということを聞いたことがある。
「でも今は、直哉君へのスキンシップでストレス解消どころか幸せを……えへへ~」
「ま、まぁ役にたっているなら別にいいんですけど」
何度も言うが、スキンシップされることは別に嫌ではないし。
「じゃあ今夜も私の役にたってもらおうかなぁ?」
にひひ~と小悪魔的な笑みを浮かべながら俺に近づいてくる。
後ずさりしても捕まることはわかっていたので、どんと構えておいた。
「あれ? 逃げないの?」
「そうですね。逃げたところで無理やりくっつかれることはわかってますし、くっつかれても大胆なことしないじゃないですか」
「ぶぅー」
実際頬をすりすりされるか抱き着かれるくらいで、その先をされたことは一度もない。何度も冗談ではあると思うのだが、誘われたことはあるけど。
なんだかんだ七里ヶ浜に行ったときにキスを誘われて以降、実行に移してこようとはしないし、案外安全なのだ。
「まぁ、そっちの方が私的には好都合だけどねぇ~」
そういって俺の腕に抱き着いてきた。
確かに安心安全。理性がぶっ飛ぶことはない……とは思うけど、その大人の魅力満載な胸を押し付けられればドキドキはするし、頬も赤くなる。
正常に男としての機能が働いていると喜んでもいいのだが、今は不都合だ。
「あれれ~ちょっと照れてない? 嬉しいの? 恥ずかしいの?」
「恥ずかしい方です。普通大人の魅力満載の人に接近されたらそうなりますから」
「へえ~それは私のことを意識してくれてるってことで素直に喜んじゃおっと」
全くこの人は本当にスキンシップが多い。
前に「なんでそんなにスキンシップ多いんですか?」と聞いたら、「触れてたら寂しさが言えるからぁ~」と緩い声で返された。
幼い女の子がくまのぬいぐるみを抱くように、朱里さんも寂しさをぬぐうために俺をこうして抱いているといった感じか。
ただ、俺にくまのぬいぐるみほどのキュティーさは携えていないが。
「そういえば朱里さんに質問なんですけど、付き合うってどういうことだと思いますか?」
「ん? 藪から棒にどうしたの?」
「いえ。その……友人が色々ありまして。まぁあとは、僕の返事の参考にです」
「そっかぁー。真剣に考えてくれてるんだね」
「ま、まぁ」
今度はニマニマと「嬉しいなぁ」と幸せそうな顔をしながら微笑んだ。
至近距離での朱里さんの笑顔の破壊力は抜群で、俺には大ダメージ。やはりきれいだなぁと思うが、可愛いなと思うときもある。
なんとせわしない。
「付き合ったことないから詳しいことはわからない。だから、私なりの解釈でいい?」
「はい」
朱里さんは俺の腕にしがみつきながら、ゆっくり話し始めた。
「言ったら私と直哉君が今しているようなことを、付き合ったら自然にできる。それと、付き合った瞬間からお互いが繋がれるような気がするんだ。お互い想いあってることがわかる。だからこそ安心感も抱けるし、一つ一つの接し方に愛が生まれる。交わす言葉一つ一つにも、愛が感じられると思うの。だから、付き合ったら愛に溢れると思うんだ」
夢を語るみたいに、どこか遠いところを見据えながらそう言う。
正直もっとふざけるかと思っていた。しかし、朱里さんの言葉にはなぜかもう愛があふれていて、それが俺に届いてきた。
愛はすっと入ってきて、ぬくもりに変わる。
「だから一生寂しくないでしょ? ずっとあったかいの」
最後にそう言い足した後、俺に優しい微笑みを向けてきた。
そして、さりげなく俺の頬に唇を重ねる。
「私の愛、伝わった?」
突然キスされたこととか、思ったよりも深い言葉とか。
朱里さんのいつも通りの笑顔とか、頬に自分からキスしたくせにちょっと照れてるところとか。
もう色々な要因が合わさって俺の脳内をぐるぐると駆け巡る。
「つ、伝わりました……」
俺はただそういうしかなくて、おろおろしている俺を見てまた朱里さんが笑った。
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