第3話 黒髪ロングの美人はみんな清楚というわけではない

 お隣さんがお風呂から上がり、さも当然のように俺の服を着てリビングへ。実際着替えとして俺の服を出したのは俺なのだから、戦犯は俺なのだが。

 

 それにしても、『男の服を女子が着ると可愛い』と友人が言っていたのだがそれは本当のことのようで、確かに魅力が倍増したように思える。

 

 そしてまるで家族のように、昨日購入したカップラーメンを朝ご飯にし、朝のニュースを見ながら麺をすする。

 とりあえず違和感がありすぎる土曜の朝は、無事ではないかもしれないがスタートした。


「あっそういえば私自己紹介してなかったね」


 自己紹介以前にこの状況が異質すぎるのだが、俺の脳は麻痺っているのかもう受け入れている自分がいる。普段騒ぐほどタイプではないし。


 お隣さんはカップラーメンの汁をずずず、と吸った後、俺の方を向いた。


「私の名前は桐原朱里(きりはらあかり)。近くの大学に通う、大学二年生。知ってると思うけど、隣に住んでるよ」


「桐原朱里……さん?」


「朱里でいいよ」


「いやさすがにそれはフランクすぎるので、朱里さんにしときます」


「えぇーそれじゃあ同棲してるカップル感ないよぉ~」


「同棲してませんから。あと、その感じ出さなくていいですし」


 この人はたびたびこういった、俺をからかう発言をしてくる。

 いわゆるドSというやつだろうか。少し違うかもしれないが、ニュアンスは同じだろう。


 朱里さんが自己紹介したので、俺も自己紹介しなければいけないと思い、朱里さんになぞって自己紹介をする。


「僕の名前は松波直哉(まつなみなおや)です。近くの高校に通ってる高校二年生です」


「えぇ?! 直哉君高校二年生なの?!」


 おそらく朱里さんは俺の制服姿を見ていないのだろう。

 だとしたら、そう思ってしまうのも無理はない。初対面の人は大抵、俺を高校生だと思わない。


 運動も特にしていないのになぜかガタイのいい体と、もともと目つきが悪いプラス睡眠不足が重なってさらに毒気が増している目は高校生の持つものではないらしい。

 親曰く、生まれつき目つきが悪いらしく、ある意味天才である。


 そんな俺だからこそ、朱里さんの反応は妥当と言える。


「それはびっくりした。でも高校生かぁ……若くていいなぁ」


 そう意味ありげに呟く朱里さんだったが、朱里さんも十分若い。

 

「朱里さんも十分若いじゃないですか。大人っぽさは確かにありますけど」


 俺がそう言うと、朱里さんがにへらと頬を緩ませて、ニヤニヤし始めた。


「えぇそう? 私若い? それに大人の魅力ある? えへへ~」


 この人普段からこんな感じなのか。

 今までただ見たことしかなかった時に比べると、だいぶイメージが違う。

 さっきも思ったけど、清楚な感じかと思った。しかし、黒髪ロングの美人なお姉さんだからと言って、誰でも清楚というわけではないのだ。


「そんなに私を褒めてどうしたいの? このまま朝からパーリナイしたいの?」


「…………」


 そしてバリバリ下ネタ発言をしてくる。

 これが大人の余裕というやつなのか……? それともこの人が単に下品なのか……。どちらにせよ、この人が変わった人であることに変わりない。


「別にそういうわけではないですよ。僕別に女子に興味はないので」


 半分本当で半分嘘。

 俺のような目つきの悪い奴と付き合うとする、物好きな奴はいない。それにもう開き直って睡眠不足を解消しようとしていない。

そもそも睡眠不足を解消したところで、目つきの悪さが百八十度変わるわけでもないし。


 だから興味を持たないようにしている。というか、持っても意味がないので自然とそうなっていた。

 しかし、朱里さんというイレギュラーな存在によって多少狂ったところはあるので、半分本当で半分嘘。


「へぇそういうタイプかぁーふーん。じゃあ私が直哉君に今迫っても動じないわけだ」


 そう言って、小悪魔的な笑みを浮かべて俺に近づいてくる。

 俺は思わず後ずさりし、距離を取る。


「興味はないですが、僕も男です。この性を受けた以上、本能的な部分ではどうしても意識してしまうところはあります。ですからどうか迫らないで……」


「ちぇーつまんないのぉ~」


 ふんっ! とそっぽを向いて、再び麺をすすり始める。

 

 それで、いつまでこの状態は続くんだろうか。


「そういえば朱里さんはなんであんな時間に酔いつぶれてたんですか? というか鍵はどこへ?」


「あぁーそれは詳しく説明する必要があるのよ。というかぜひとも聞いてほしい!! あと鍵はね、うん居酒屋にカバンごと忘れた」


「いやさらっと一番重要なこと言いましたよね! 今九時ですから、鍵取りに行った方がいいんじゃないですか?」


 カバンごと居酒屋に忘れるとは……なぜか朱里さんらしいと思ってしまう。


「そんなことは今どうでもいいの! たぶんとりあえず誰かが届けてくれると思うし。で、私の話を聞いて!」


「は、はい……」


 圧がすごいので、とりあえず頷いておく。

 朱里さんは満足したように「うんうん」と頷いて、話をし始めた。


「これは昨日、私がショックを受けてやけ酒をしたきっかけとなる話よ……」


 とても嫌な予感がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る