第23話 男たちの本音
玲央が渚のことを好きだという事実が発覚した現在。
俺は衝撃的な事実を処理することができずに、ポカンと玲央の顔をじっと見ていた。
渚は玲央に告白する方向で行動し始めると言っていた。でも、これで玲央と渚は両思いであるということが確定した。
おそらくあの様子じゃあ渚はきっと両想いなことを知らない。
でも、当事者の中で、玲央は両想いであることを知っていた。というか、言い方からしてずいぶん前から両想いであることを知っていたような感じがする。
何か違和感がある。
その違和感についてしばらく考えていると、突如その違和感は正体を現した。
「お前さ、両想いならなんで付き合わないの?」
そうだ。普通両想いであるなら告白するはず。
それも玲央のような彼女に飢えている存在であればなおさら。これが違和感の正体。
玲央は俺の言葉に一度視線をそらして、しばらく黙り込む。
視線はそらしたままで、息を漏らすように言葉をこぼした。
「そりゃ、恥ずかしいからに決まってんだろ……」
「は?」
反射的に言葉が出た。
こいつが恥ずかしい? ありえない。いくら人前で恥ずかしい行動をとっていても、むしろ快感を感じているかのような顔をしていたこいつが恥ずかしい?
ギャップを通り越して寒気がした。
「お前まさかとんでもない乙女なんじゃないか?」
「乙女とはなんだ。俺は白馬の王子様だゾ」
「白馬の王子様が告白するのを恥ずかしがるわけねーだろ」
「白馬の王子様だって、人間だゾ」
「だとしたら人間味がありすぎだ」
意外だった。
まさか玲央が恋愛においてこんなにも奥手だったとは。
「でもなんで恥ずかしいんだ? 両想いなら告白が失敗するわけじゃないだろ?」
「……違うんだ。渚のことを好きになったあの日から俺は……ずっと考えていたんだ」
急に深刻な表情をし始める。
ここは俺が何か口出しする場面ではないなと思い、玲央の言葉を待つ。
すると、俺の肩を両手でかっしりとつかんで、鬼気迫る様子で言った。
「カッコいい告白のセリフが……思いつかないんだッ‼」
俺は玲央という人間をこの時、深く理解した。
そう、彼はやはり――
ただのバカなのだ。
やはりそこにおいては全くぶれていない。
「きっと俺が女子に好意を寄せられるなんてこの先あるかなんてわからないし、両想いなんてきっと奇跡だ。今こうして俺とお前が仲良くしている以上に、奇跡なんだ」
「は、はぁ」
「さらに家は隣で、幼馴染。それにそこそこ可愛くて、時折見せる弱い部分なんかグッとくる! だからこんな奇跡を俺はこの先手放したくない。つまり、これは一世一代の告白になるんだ! 最高の告白でなければダメだろ‼」
俺の肩を揺さぶり、至近距離なのに無駄にでかい声で熱弁。
熱意はとにかく伝わってきた。
「じゃあお前、美人なお姉さんタイプが好きってわけじゃないのか?」
「……あぁ。俺は実は渚一筋なんだ」
玲央は男版ツンデレか何かなのだろうか。
どうやら渚も何年も片思いのまま思いを告げていないらしいし、正直この拗らせようは俺の比べ物にならないなと思った。
俺の「朱里さんのことを好きなのか?」という問題は、小さくかすんでいく。
やはり世界は広かった。
「俺から言うのもあれなんだけどさ、もう早くくっつけよ」
「それはお前だけには言われたくねぇゾ!」
「いやその気持ちはよくわかるんだが……見ててこそばゆいよ」
「それは俺も同感だ。どこで立ち止まってんだよ! もう付き合えよ!」
「それはこっちのセリフだっつーの‼」
しばらくの間、いがみ合う。
どちらも引かないい水掛け論を繰り広げて早十分。
体力が尽きるという形で口論は幕を閉じ、息を切らしながら天を仰ぐ。
「俺たちさ、やっぱりバカだったんだな」
「男はバカの方がいいんだゾ。ただ、お互いに意気地なしすぎるのは共感の嵐だぜ」
「あぁ」
お互い少し似た境遇にあるからこそ、自分のことを客観視することができた。
確かに、傍から見たら俺は意気地なしで、一歩を踏み出す勇気を持てない冴えないやつ。
いつまでも同じようなところでうろちょろしていて、進んでいるように思っていても、結局一歩も進めていなかった。
「俺たちさ、もう高校二年生だ。そろそろ、大胆になった方が良いよな」
「そうだな。俺たち、そろそろ成長しないとな」
そんな言葉をお互いに交わし、決意を改めがっしりと握手を固めた。
「よしっ、帰るか」
「おう」
俺たちはこれを機に、何か心の中で変わったものがあった。
ようやく、気持ちが前進し始めた。
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