第22話 自意識過剰ボーイはマジである
その後、二人で下校していた。
誰かを忘れているよなぁと思いながらもまぁいいか、と思って歩く。
学校からしばらく歩いたところで、電柱にもたれかかる人影があった。
「遅かったなお前らッ☆」
あぁ、そういえば玲央がいなかった。
「玲央先輩なんでここにいるんですか?」
「そりゃ、お前らを待ってたに決まってるだろ?」
いちいち動作をカッコつけるあたり、玲央に間違いない。
ただ、こうして待っていることは珍しかった。
「いやまぁ実は、直哉に話があって待ってたんだけどな」
「えっ俺?」
「そうだぜ相棒。俺はお前をずっと……ずっと待っていたッ‼」
「大げさだな。俺んちか?」
「いや、今日はそこら辺の公園でいい。ただ、渚は悪いが先に帰っててほしい」
珍しく真面目な表情をする玲央。
こんなにも重みのある言葉を発しているのは珍しかった。
「……わかった」
そんな玲央を見て、潔く一人で帰っていく。
俺と玲央はそんな渚を見送る。
「で、お前が珍しく真剣にどうしたんだよ」
「俺はいつだって真面目だぜ?」
「…………」
「おいスルーするなよ」
玲央はそうツッコんで、俺の家とは逆方向に足を踏み出した。
玲央は特に何も言わないので、俺も何も言わずに玲央の後についていく。
住宅街や森の中をしばらく歩いた後、着いたのはさび付いた遊具がある、こじんまりとした公園だった。
公園なのに子供姿は全くなくて、いた面影すらない。
「ここは誰もいない秘境の場所なのさ」
「こんなところあったんだな」
「昔渚と二人で練り歩いてたら、こんな場所を見つけたんだ。お互い本心を語り合うには、誰も来ない場所が必要だろ?」
本心、という言葉が引っかかる。
こいつとは高校一年生から仲良くしているが、今までにこんなにも真剣に話そうという機会は一度もなかった。
「で、話ってなんだよ」
古びたベンチに腰を掛ける。
すると玲央も同様にベンチに腰を掛けた。
だが、やけに距離が近い。
「おい近いぞ」
「そうか、俺が眩しすぎるんだなッ‼」
「いや違うから。お前発光してないから」
「はははっ‼」
相変わらずの玲央だ。
今は中二病がとりそうなポーズを恥ずかしげもなくやっている。
「で、お前あのお姉さんとあんなにイチャコラしてたんだなッ‼ なんだ抱き枕って‼」
「いやお前聞いてたのかよ」
「渚が部活ないときは基本的一緒に帰ってただろ? 二人ともいないもんだから俺の眩しさに耐えられなくなったのかと思って探してたら二人が話してるのを見つけてな」
「そ、そうなのか……」
まさか聞かれていたとは……。
ここであることに気が付く。
あれ? じゃあ渚が玲央のこと好きなの玲央にばれてね?
「玲央……お前もしかして全部聞いてたのか?」
「当たり前だろ。というかそんなことより、お前うらやましすぎるんだよッ‼ 全物語の主人公である俺を差し置いて貴様何しているんだッ‼ 早く俺に代われッ!」
「いやそういうことは今どうでもいいんだよ。お前……大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃねぇよ‼ 仲間だと思ってたやつが美人なお姉さんとイチャイチャしてたらな!」
「いやそういうことじゃなくて……お前、渚に好かれてんだぞ?」
そうだ。この男は幼馴染から好意を寄せられているのだ。
女子に生理的に拒否られているこいつが、女子から……それもなかなかに可愛い幼馴染から好かれているのだ。こんな風に平常運転であるはずがない。
玲央は俺の言葉に驚くこともなくて、至って普通の流れで言った。
「いや、そんなことは前から知ってんゾ」
「へっ?」
「そんなことよりお前の――」
「全然そんなことじゃねぇよ‼ 大問題だろこれ‼」
まるで世間話をするみたいに軽く言ったもんだから危うく適当に受け流すところだった。
まさか玲央が渚の好意に気づいていた……?
その衝撃的な事実を、俺はまだ消化しきれなかった。
「何をそんなに驚くことがあるんだよ。鈍感主人公でもない限り、昔から一緒にいる幼馴染が自分に好意を寄せてきてることくらいわかるゾ。俺はそういうのに敏感だゾ」
「……確かに」
思えば渚は自分で海に行こうと誘っていたし、こうして毎日のように登下校をしている。
そりゃ幼馴染といえど好意はあるのか。
ん? もしこれが誰にでも適用されるのだとしたら……。
「お前さ、もしかして――渚のこと好き?」
俺は意を決してその質問をした。
正直あくまでも今思いついた仮説にすぎない。
ただ、玲央の言っていることが正しいなら、玲央もまた渚を好きであるに違いない。
でも玲央は美人なお姉さんが好きって言っているし、正直わからないのだけど……。
半信半疑で玲央の回答を待っていると、玲央はまたあっさり答えた。
「そうだけど」
しばらくの間、思考が止まった。
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