第4話 独り身の朱里さんは彼氏が欲しい
朱里さんは神妙な面持ちで、昨日の出来事を語りだした。
「私昨日、大学のサークル友達と飲みに行ったのよ。ちなみに、全員女子だから安心して」
「別に僕嫉妬とかしないですし。それに朱里さんに好意はないので気を遣わないでください」
これからからかわれるのは嫌なので、きっぱりと言っておく。
案の定朱里さんはつまらなそうな顔をして、ぷくーっと頬を膨らませた。
そして「ふんっ!」とまたそっぽを向いた後、話を続けた。
「ちなみにサークル名は『東南アジア研究サークル』なんだけど、私を含めて女子五人くらいでお酒飲んでたんだけどね」
「すみませんサークルのインパクトが強すぎて内容が入ってきません」
「えっそうかな? 普通にテニスサークルとかか同じくらいの認知度だと思うけど」
「大学行ったことないんでわかりませんけど、それはないと思います」
『東南アジア研究サークル』とか初めて聞いた。
大学は高校に比べて部活動的なサークル活動は緩いと聞いたことがある。でもおそらく、『東南アジア研究サークル』は高校で言うところの『地理研究部』とかそこら辺と同じ類だろう。
だとしたら、認知度は低い。ただ、インパクトはある。
一応ディスってばっかだとそう言った部やサークルに属している人にサイバー攻撃を受けかねないので、バカにしていないということだけは分かって欲しい。ほ、ほんとだよ?
「まぁそれはおいといて、でだよ!! そこで何と私以外の四人から重大発表!」
「は、はい」
「なんとね! みんな彼氏ができたっていうんだよ!! それで年一行くはずの東南アジアは彼氏と行くって!! そして彼氏とののろけ話をし始めてさ!! これはもうやけ酒でしょ!!」
興奮気味にそう言う朱里さん。どうやらその時の気持ちを思い出したようで、拳を握って非常に怒っている。
俺はそんな朱里さんを見て、正直なことを思った。
そ、そんなことかよ……。
「私だけ独り身なの! 孤独なの! 寂しいよぉ!!」
今にもやけ酒をしそうな勢いで、俺の肩を持って体を揺さぶってくる。
現在俺の体感で震度六弱。甚大な被害が予想されます。
「そ、そうなんですね。まぁとりあえず俺を揺さぶるぅぅわぁえあさ」
「ねぇお願いだから私のこの寂しさを癒して! お願いだから癒してぇぇ!!」
「やめてくださわぁえあえあ」
割と強めに揺らされているので、言葉がうまく発せられない。
朱里さんの興奮は冷めず、「うぇーん!」と子供っぽく泣き喚いて、俺に訴えかけている。
俺は心底思った。
この人めんどくせぇ……。
「うわぁ彼氏欲しいよぉ! イチャイチャしたいよぉ!」
「そうですねわぁさえあ」
欲望駄々洩れ。
俺の首がそろそろ限界を迎えそうなので、朱里さんの肩を持って俺から離した。
「ふぅ……とりあえず、一度落ち着きましょう」
「ぐすん。う、うん……ごめんね……」
「いえいえ」
朱里さんは涙を俺のTシャツで拭った。それで、容赦なく涙まみれのくっしゃくしゃにした。ほんと、遠慮ないのかこの人には。
そして朱里さんが落ち着いた辺りで、話をし始める。
「一つ疑問なんですけど、朱里さん彼氏いないんですか?」
「いないよ? というか生まれてこのかたいたことがない」
「でも朱里さんほど美人な人だったら、好意を寄せられることがあったんじゃないんですか?」
そうだ。朱里さんは正真正銘美人な人だ。
こんなオープンを通り越してドアすらない人と知らなければ、男の理想である黒髪ロングの美人なお姉さん。好かれないわけがない。
「いや私ね、どうやらダメ男に好かれるらしくて、友達がセーフティーしてたの。友達というか、幼いころからの親友なんだけど」
なるほど。確かに雰囲気、ダメ男に寄られそうな感じがある。
言ったらたぶんもう一度泣かれそうだから言わないけど。
「その子私のお父さんみたいな感じで、ずっと見極めてるの。それで結局この年までその子のお許しは出ず。それでも、私も別にそこまで恋人に興味なかったからいいやって思ってたんだけど……その子もイケメンの彼氏作って……ようやく気付いたの。私だけ寂しい独り身じゃん! って。それで彼氏欲しいよぉって昨日なったの。たぶん人生初」
「そうなんですね……」
でもなんとなく朱里さんの親友の気持ちはわかる。
こんなに自由奔放な人を野に離すなんてなんか危ない予感しかしないから、幼いころからずっと一緒にいたなら俺も朱里さんの親友のように過保護になっていたかもしれない。
でも、その親友は彼氏作るとか、なんかひどいな。
「それで提案なんだけど……」
「提案……ですか?」
「そう! 私の直哉君の、ウィンウィンな関係よ!」
「ウィンウイン?」
そう聞き返すと、まるで大発明をしたかのような自信気な表情で、ビシッと言った。
「私と付き合おう!!!」
バカげた俺と朱里さんの関係が、始まる。
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