第27話 美人なお姉さんは恋愛映画が見たい
その後朱里さんが俺の膝の上から退く退かないの攻防は、普段から運動不足気味である二人の体力切れによって幕を閉じた。
そして朱里さんが「直哉君の部屋がやっぱりいいよ~直哉君の匂いするし」と変態的な言葉を平然と言って駄々をこね始めたので、俺の家へと戻ってきた。
まぁ正直なところ、俺の家にいようが朱里さんの家にいようがそこまで差異はないのだが。
「なんか恋愛映画でもみたいな」
唐突にそんなことを言い出す。
確かに俺はネット〇リックスを愛用するあまり、最近では見るバリュエーションもマンネリ化していたころなので、恋愛映画もありか。
「そうですね。じゃあ朱里さんが選んでみてください」
「うーん……私恋愛映画見ないからなぁ。恋愛映画見てると、なぜかイライラしてきちゃうんだよね」
「そ、それはそれは……」
最近忘れかけていたのだが、朱里さんは非リアなのだ。でも、リア充に憧れているタイプの。端的に言えば、寂しがり屋。
「でも、今は直哉君がいるし! 直哉君を抱いてみればきっと幸せな気持ちになるはず!」
「距離が近すぎるのはやめてくださいよ。頭真っ白になるんで」
「……何もかも忘れて、恋に焦がれようぜ?」
「玲央ですか?」
急に既視感のある言葉が出てきてびっくりする。
思えば、ノリとかは玲央にそっくりだと思う。もしかしたら、俺にはそういう人を寄せ付ける能力でもあるのかもしれない。
「まぁとにかく、私はよくわからないから直哉君が見たことあるやつを見たいなぁ」
「そう……ですか。僕もあんまり見たことがないんでわからないんですけど……」
俺は友達がいないので、こういう提案は少々困る。
なぜなら、自分がおすすめしたものがあまり相手にハマらず、微妙に変な空気になるのが怖いからだ。
だからここは無難に人気の作品を選ぶことにする。
「うーん……これなんかどうですか? 結構話題を呼んだ、『君の爪を煮込んでお味噌汁にしたい』」
「……これほんとに恋愛映画?」
「はい。普通に泣けました」
「直哉君泣いたの⁈ へぇー直哉君って泣くんだー……泣くとこ見てみたいなぁ」
「いやですよ。僕親以外に泣くとこ見られたことないんでなんか嫌なんです」
「私……親以下だったんだ」
なぜそこで落ち込むんだ? と疑問に思う。
普通親より上はいないと思うんだが、朱里さんは俺の親をライバル視しているらしい。
競い合う相手を間違っているのだが、それに気づいていないからそんなことを言っているんだろう。
「まぁとにかく、この作品でも見ますか」
「うん! そうだね!」
見ると決まったらとりあえずお菓子とコーヒーを準備せねばと思い、立ち上がる。
朱里さんも俺のルーティンを知っているため、俺はコーヒーを。朱里さんはお菓子をちゃぶ台に運ぶ。
見事な連携により素早くネット〇リックス鑑賞の態勢が整った。
「じゃあみますか」
「うんっ!」
そう返事して、朱里さんは俺の腕にしがみついた。
思わず「うはっ」って声が出そうになるが、これも何度も経験しているためグッとこらえることができた。
ただ、俺の腕に柔らかい凶器が当てられていることに関しては慣れるどころか日に日に凶暴さを増しており、正直映画どころではない。
本当に朱里さんは無防備すぎる。
それほどに心を許してくれているということなのかもしれないけど。
「これ高校生が主人公なんだね。てっきりおじさんかと」
「まぁタイトルからしたらさわやかさはないですよね」
「でも、なんだかおもしろそう」
この会話を機に、朱里さんは集中して映画を見始めた。
時々「うらやましいなぁおい‼」といかにも男子高校生が言いそうな野次をを飛ばしながらも、引き込まれている様子。
しかし、俺は一度見たことがあるため、映画なんて集中して見ていなかった。
考えているのは、俺は朱里さんのことが好きなのか? ということ。
今ちょうど密着しているし、それを知るにはちょうどいい機会だと思ったのだ。
確かにドキドキしている。それに朱里さんのぬくもりが伝わってきて、安心感すらある。
しかし、ドキドキしているのは単に胸部が当たっているからなのかもしれないし、ぬくもりはただただ朱里さんの体温が高いからなのかもしれない。
結論。よくわからん。
ただ、こんなにも密着されていても嫌ではない。
それだけは間違いなくて、今は自信をもって言える。
つまり今確定しているのは、俺は朱里さんが嫌ではないということ。言い方を変えれば、好きである可能性が十分にあるということ。
まぁそもそも家に上げている時点で嫌ではないだろって言われると辛いのだが、少しずつそのラインを押し上げていけば、わかるかもしれないと思うのだ。
好きなのか問題。解決度微妙に上昇。
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