第33話 玲央と渚は心配性
玲央と渚のデート当日。
俺は自宅でスマホを片手に待機していた。
どうやらデートの状況を俺に逐一伝えるらしく、それを客観視してアドバイスしなければいけないのだ。しかも二人とも同じことを言ってきたもんだから、そこんとこ早く結婚しろよ、と思う。
ちなみに二人の件に関して詳しい事情は何も知らないが、朱里さんも一緒にいる。
といっても、俺が膝枕をして朱里さんが寝転がりながらテレビを見ているだけだが。
うーん……やはり俺と朱里さんの立場が逆転している気がする……。まぁこれが俺と朱里さんの距離感だから別にいいのだが。
突然、スマホが「ピコン」と音を鳴らした。
『今から行ってくる!』
『いざ、聖戦へ参るッ!』
二人同時にくるとかほんと気が合いすぎだな二人とも。
とりあえず二人ともに『がんばれ』と返しておいた。
「朱里さんそれじゃあテレビ見えなくないですか?」
「私は直哉君のふくらはぎを見てるの」
「変態ですね」
「へへっ」
朱里さんはなぜか顔を俺のふくらはぎに埋めていて、大変おかしな姿になっていた。
今日は十二時間も寝たというのに、また寝るつもりだろうか。
「僕のふくらはぎで寝ないでくださいよ?」
「……ふと私は思った。直哉君を色々な体勢で枕にして寝てみたい、と」
「いやですよ」
「うぅー……残念。今度は私が膝枕しようか?」
「大丈夫です」
「即答……普通男の子って膝枕してほしいものじゃない?」
「僕が普通だったら、朱里さんに抱き着かれたら抱き返してますよ」
現に抱き着かれたら引き離しているし、きっと普通ではないのだろう。
性的欲求が少ない……というのもあるかもしれないと、最近思い始めた。最初はあると思ってたんだけど。
「確かに私、直哉君に抱かれてない……」
「言い方」
「二重の意味で抱いてもいいんだよ?」
「コーヒーとってきます」
「まさかの塩対応……」
もうこういう会話は慣れた。
いちいち驚いていては体力が持たないので、俺も進化したのだ。
そういえばさっきスマホが振動していた。
おそらくあの二人からだとは思うけど、メールを送る頻度が多すぎる。
『待ち合わせ場所きました!』
『待ち合わせ場所に、俺あり』
『いちいち報告しなくていいわ』
逐一報告するといっても限度がある。
このままじゃ『歩いた』『座った』『チケット買った』とか、ツイッター中毒の人レベルで逐一報告しかねないな。
追加でもう一通メールを送っておく。
『あと、メールばっか送ってると相手と全然話せなくなると思うぞ? デートでスマホばっか触ってるやつはよくないって聞いたことある』
まぁ実際二人とも同時くらいのタイミングで送ってきてるみたいだから、スマホを触っているのをじっと見て待つという状況は生まれていないのでひとまずいいけど。
でも、やはりこれが続くとなると溝が生まれてしまう。
ちなみにこの知識は真澄さんから得た。
真澄さんが定期的にメールで『デートの極意』についてアドバイスしてくるのだ。まだ付き合っていないというのに。
コーヒーを入れる準備をしていたら、二人から返信が返ってきた。
『了解です!』
『わかったゾ。でも渚の奴、拳で語るタイプなんだよなぁ……』
『そこは口で何とかしろ』
『俺を誰だと思ってる。いつでもナンバーワンホストになれる人材だゾ?』
じゃあなんで逐一状況報告してくるんだよ。
色々ツッコみどころはあったのだが、それをすべて飲み込んで『がんば』と送った。
「まぁ二人なら、きっと大丈夫だろうな」
なんだかんだあの二人の関係は長い。
俺が心配することでもないか。
「……直哉君がさっきからスマホばっか見てる……」
気づかぬうちに朱里さんはキッチンまで来ていて、俺を後ろから抱きしめながらそう言ってきた。
「危ないですよ朱里さん」
「そうだねこのまま燃え盛る恋の炎が大きくなってしまうもんね」
「違いますよ。火を使うんで離れてください」
そういうが、朱里さんはさらに強くぎゅっとしてくる。
「……私をエプロンとして使っていいから」
「後ろにエプロンつけてる人いませんよ。それに火を使うだけなので大丈夫です」
「……嫌だ」
今日は朱里さんがとびきり寂しい日のようだ。
たまにこういう日がある。
こういう日はスキンシップが五倍になり、とってもめんどくさくなるのだ。
「あとでにしてください」
「……しょうがない。あとでね」
そして子供のように素直で無邪気。
美人なお姉さんだけど、精神年齢が全く読めない。
大人だったり子供だったり。困ったものだ。
「(玲央、渚。頑張れよ)」
そう二人に念を飛ばして、火をつけた。
〈一方そのころ玲央と渚は……〉
「券売機の画面に映る俺……イケてるッ」
「玲央先輩私が恥ずかしいのでやめてください!」
「そうか、渚は照屋さんだな」
「ふんっ!」
「ぐはっ」
「私が適当に席決めときますねー」
「…………」
なんだかんだ平常運転である二人だった。
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